ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(番外編3-3)

【大紀元日本8月31日】老人は、鼻血をタラタラと流しながら、気丈にも「おまえたち居仲組の魂胆は分かっている!」と叫ぶと、若いやくざ者は「けっ!」とばかりに鼻白み、手下に合図を送ると一斉に送り馬を10ポンドハンマーで壊し始めた。

私は足早に土間に入り込み、ここぞとばかりに如意棒を物質化してやくざ者の鼻先につきつけ、一方で部屋の時間を急速に短縮する。そのとき、一匹のカブト虫がブーンとばかりに土間の明かりに惹きつけられて飛んで来た。すでにやくざ者の脳裏は、残存現象で混乱し始めている。

「あ、兄貴!カブト虫がいっぱいだ!!ひぃー!」と絶叫しながら、三下がハンマーを力なく乱舞させ始めた。「ば・・馬鹿!これはクワガタだ!それも日本のじゃない!台湾産だ!」などと訳の分からないことを口走っては、両眼を血走らせ、土間の玄関から転げ出るようにしていなくなった。

一瞬のことだったので訳の分からなかった風の老人は、鼻血を袖で拭いながら「何ですか?今の技は・・?」とキョトンとしている。「これは寿老人の値千両斤を改良した神業で・・」というと「はぁ?寿老人?」と訝しがるので、「あ・・いや・・言わば中国の兵法・・そう“戦わずして勝つ”でしょうか・・」と応えると、老人はこれまでの経緯を切々と語りだした。

「実はある日、村はずれに京都の虚栄山から、極楽和尚という腐れ坊主が来て庵を結びました。何やら、銭洗い弁天を信仰すれば、村も経済的に豊かになるとかの邪説を広め・・一方で、照門手などという怪しげな会社と手を組み、田畑の権利書をせしめているのです」、「でも・・ただではないわけでしょう・・土地の代金が入れば合法なのでは・・」・・ここまで言うと老人は静かに首を振った。

「村人は、みんな現金では受け取っていないのですじゃ・・もっと配当があるからと・・照門手の株券と交換したのです・・あんな会社・・六本木散津俗の巴里衛門が買い取ってのっとったものだ・・大方粉飾決算で村人を騙しているのに違いない・・」と言って肩を落としている。

「御主人・・私は中国から来たので、資本だの・・株券だのというものは皆目検討もつきませんが・・まずは極楽和尚というものがどういう人物なのか、明日行って検分してみましょう」。「みず知らずの旅の客人なのに・・お願いします」と老人が言うと、鬼門の方向からさっと生暖かい風が流れて来た。

翌朝、東の空が白む頃、宿の鶏が一声を挙げ、私は早々に村はずれの極楽往生寺を訪ねた。寺に着くと、まだ落成してから時間が経っていないからか、金縁の額「極楽往生」が朝日に映えてまぶしい。あたりを見たが、門前を掃く小僧はいない。構わず、寺の境内に入り、「背混」の警備エンブレムの入った玄関のインターフォンを鳴らす。

奥から七三に分けた髪の寝癖を直しながら、若い小僧が欠伸をしながら出てきた。「はぁ~?・・どういったご用件でしょうか?」「・・・ご住職に面会したいのだが・・」と小僧を睨むと、「和尚さんは、昨晩は商工会議所のお偉いさんと般若湯の会に出ていまして・・まだ帰ってきていませんよ・・」などと白けている。

そこにエンジン音もケタタマシク、早朝の静かな空気を切り裂くようにして真っ赤な欧州車が境内に乗り入れた。ドアが垂直に開くと、中からアロハシャツを着て剃髪した男性と化粧の濃い若い女性が降りてきた。「・・やっぱり車は欧州車に限るな・・」などと頓狂なことを言っては、あたりに酒気を発散させている。

「あ!ご住職お帰りなさい!」と小僧が繕うと、男はさっと手を挙げ、リモコンで車をオートロックすると女性の肩を抱き、さも愉快だという風に本堂の方へと足を運んでいった。