【花ごよみ】ヒガンバナ

2022/09/23
更新: 2022/09/21

彼岸(ひがん)とは、文字だけ見れば「向こう岸」という意味である。

彼岸は、日本の季節感を暦のなかにあてはめた雑節(ざっせつ)の一つで、春と秋にあり、昼夜の長さが同じになる日(春分・秋分)を挟む7日間ほどがその期間にあたる。

ただ日本語は便利なもので、その時期だけを指すときは「お彼岸」といい、人が死後に川をわたって行き着く場所は「彼岸」と呼び分けている。

仏教でも彼岸という。とくに日本仏教においては、平安期に隆盛した浄土信仰からくる影響がつよいため、死後に行けるとする極楽浄土への憧れを込めて、その場所をどこまでも美化して想像した。そこには、広々とした野に一面の花が咲き、生きている人間が有する一切の苦悩がない。なぜならそれは、阿弥陀如来が主催する世界だからである。

不思議なことに、インドや中国の仏教には、日本の墓参りのような年中行事としての「お彼岸」はないらしい。もとは同じ仏教でも、ずいぶん日本的に変化したものである。

中国大陸が原産で、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)という別名をもつヒガンバナは、その根が強い毒性を有するため、特殊な場合を除いて食用や薬用にはしない。単独の花が美しいかどうかは見る人の好みによるが、群生したヒガンバナの景観はなかなか見事なものがある。

埼玉県日高市の巾着田(きんちゃくだ)は、樹林のなかに500万本のヒガンバナが咲く。あるいはこれも、極楽浄土の実景に似ているのかも知れない。

鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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