【花ごよみ】ヒマワリ

ソ連時代のウクライナで撮影された映画ひまわり』(1970)が、日本でも再び注目されているという。

名作である。オールドファンには、あらすじを申すまでもないが、主演のソフィア・ローレンが87歳でまだ健在というので、嬉しさのあまり筆を走らせてしまう。

第二次大戦末期。美しい若妻ジョバンナの夫アントニオは、イタリア軍の兵士としてソ連へ征く。酷寒の原野を敗走するアントニオ。力尽きて雪のなかに倒れたが、危うくロシアの村娘マーシャに救われる。

ジョバンナは、戦死の知らせもないが、何年待っても帰ってこない夫を探すため、なんと単身で社会主義時代のソ連へ行くのである。夫の消息を求めて、言葉も分からぬ異国をさまようジョバンナ。背景は、どこまでもヒマワリが広がるウクライナの大地である。

やっと探し当てたアントニオは、マーシャの夫になっており、幼い娘も生まれていた。ゆがめた顔で動く列車に飛び乗り、泣き崩れるジョバンナであった。

あまりに過酷な運命のなかで、老女のようにやつれていくソフィア・ローレンの表情がたまらない。バックに流れる音楽も秀逸だが、それにしても、この映画にみるヒマワリの効果の絶大さはどうであろう。

「花は、その美しさで人を喜ばせるもの」などという既成概念をひっくり返し、異国に夫を探す妻の絶望感や孤独を、これほど浮き彫りにする凄絶な風景があろうか。やはりこの映画の題名は『ひまわり』でなければならない。

鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。