<赤龍解体記>(1) プロローグ

「21世紀は中国の世紀だ」と中国人は気負う。文明史的な視点から見れば、このことばは自惚れの嫌いがあっても、必ずしも過言ではないかもしれない。

 将来、歴史的事実として証明されるであろうが、中国の台頭およびその影響力の増強は人類文明史の必然のステップであり、歴史の発展の大趨勢である。

 一方、中国の急速な台頭により、世界は困惑する。従来の均衡が破られ、さまざまな問題がもたらされてくる。この異変と潜在的脅威をどう受けとめ、どう対応していくべきか。これは国際社会にとって、確たる時代の大きな課題である。

 しかし、中国の実質はなかなか認識しえず、つねに五里霧中にある。その原因は三つあると考えられる。一つは、中国の表象と本質はかなりのギャップがあり、一般的にもろもろの現象からその本質を容易に抽象しえない。二つ目には、中国は事を行うにあたって、つねに便宜主義的であり一定の規則が見られない。三つ目には、よそから混沌たる中国の真相を洞察しがたいゆえ、中国から押しつけられた概念や論理や情報に頼ってその中国を見てしまいがちである。

 太極拳のように緩やかでありつつも常に変化する中国について、その複雑な表象に囚われず簡単にその要をとらえる方法はないのだろうか。中国の諸問題を生んだ体制、すなわち一党独裁の中国共産党(以下、中共)の在り方を把握することで、中国問題のマスターキーを手に入れられるのである。

 今の中国は、歴史的な大変化が確実に起こっている。その大変化とは、決して多々言及されている経済問題や格差問題などのような表層的なものではなく、社会や体制ないし文化や価値観までも徹底的に一変させる画期的な大転換としか言いようがない。中国は今、いよいよその転換点に来ているのである。

 もし、中国における画時代的な大変化に次の一手を適宜に打とうとすれば、中国の真相を察知し、とりわけ現体制の軸である中共の内実を徹底的に検証し、その正体を明察しなければならない。これらは諸事の大前提である。

 中国人の間で、中共は「赤龍」と呼ばれている。この「赤龍」は西洋文化の中の赤龍ではなく、東洋文化の中の悪龍である。『梅花詩』(北宋・邵雍)に「火龍蟄起燕門秋」という句があるが、「赤龍」とはその「火龍」のことである。

 歴史・文化的要因のほか、現象論的に言えば、中共は誕生して以来ずっと赤色的暴力を振るい、かつ狂気の色とされる赤色を殊に好んでいる。それゆえ、中共という組織は「赤龍」と呼ばれ、本連載もその呼称を借用する。

 本連載は、激変する中国の諸生態を幅広く提示し、それらを検証しつつ中共への本質的認識につながるようにし、そして赤龍解体のプロセスを断片的ながら記しておきたい。これらが本連載の課題、所願、そして使命である。

 いよいよ90歳を迎えるこの赤龍は今後、如何に変貌し解体するのだろうか。

 

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