<赤龍解体記>(2) 18大をかけて乱戦

2010年10月18日、中共第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、江沢民等から強い後押しを受けた太子党の習近平氏が、軍の要職・中央軍事委員会副主席に選出された。これで、軍副主席の選出が見送られるなどの風説が一掃され、習氏がポスト胡錦涛の道を歩めるか否かという謎も解けた。

 5中全会は政権交代の重要な前哨戦であり、政治の時代を分ける分岐点である。任期が残り2年となった胡錦涛総書記は今後、新たな業績を作り更なるステップへ進むより、無事にその職務を全うしようとしているものと思われる。一方、次期最高指導者に確定した習近平氏は、足元を確かめながら小心翼翼と前へ進み、各派閥とのバランスを保ちつつ2年後の青写真を構想し、とりわけ自身のカラーとその打ち方を考案しなければならないだろう。

 しかし、中共の政界はそのような単純構造ではない。5中全会前後から、党内の各派閥間で凄まじい乱戦が繰り広げられ、いろいろな方式でかけ引きや戦いが行われている。こういった戦闘は18大開催まで続き、優勝劣敗のゲームを通じて勢力の再編成が成し遂げられるのである。次の出来事がその一例として挙げられる。

 国営新華社通信によると、昨年12月6日から9日まで、習近平は重慶を視察し、同じ太子党で中共重慶市書記・薄煕来の「唱紅打黒」※運動を大いに評価している。

 習近平と薄煕来の間には、かなりのわだかまりがあるという。しかし、胡錦濤に対抗するに当たって、薄煕来は欠かせないやり手として江沢民から重用されているし、2年後に重要ポスト(少なくとも政治局常務委員へ昇格と見られる)に配置されるだろうと予測される。そこで、薄煕来にエールを送ることによって、習近平は上海組、太子党、毛派(左派)の支持を得ることもできるし、この潜在ライバルを味方につけることもできると見られている。

 中共広東省書記・汪洋氏は、胡錦濤の大将であり、薄煕来と肩を並べる次世代のダークホースとされ、18大で国家指導者格として抜擢されるという。しかし、この汪洋氏も最近、習近平に次いで薄煕来を支持すると明言した。

 むろん、汪洋氏の発言が瞞天過海(人目をくらましてひそかに悪事を働く)であるかどうかは知れないが、ただ現象論的に言えば、このような挙動は、政界の風向きが大きく変わり、胡錦濤勢力が著しく衰微し、習近平株が大幅に上がったことを意味していると見られる。

 

 海外メディア・博迅によると、18大の人事は依然として江沢民が牛耳を執るとみられている。そして、江沢民は最近、今後メディア報道では、自分を国家指導者から外すよう指示したという。この狙いは、自分のことより来年引退することになる胡錦涛を前以って牽制するものだろう。

 政治相場に王道なし。しかし、中共の政治相場が大きく変動した一連の動きに対して、胡錦濤のある秘書は次のようなコメントを述べて牽制した。

 来年政権交代するとはいえ、これで胡錦濤と温家宝が完全にあきらめたというわけではない。もし、どこかの勢力がやり過ぎれば、捨て鉢になって一矢を報いる可能性は否定できない。いよいよ中国を支配する太子党に対し、胡錦濤と温家宝はそもそもそれほど不快感を抱かなかったが、しかし、習近平らはあまりにも胡錦濤らをたじろがせ、次期政治局で太子党が大多数を占めるように人事選抜をするよう指示している。もちろん、この手は人々の反感を買っている。したがって、これからの2年間、胡錦濤と温家宝は民意をテコにし、太子党らに反撃する可能性がまったくないわけではない。最後にならなければ、諦めるなどとは言えず、結果がどうなるかはまだ未知数である。

 「銘柄を買うな、時を買え」。中共の政治投資家たちにとって、「時」とは何かは非常に大きな課題である。

 ※「唱紅打黒」運動:薄煕来が進める運動で、革命の歌曲を歌い、マフィア組織を取り締まること。その内容ややり方などから、賛成より否定的な態度をもつ者が多い。

 

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