<赤龍解体記>(3) ステルス機をめぐる謎

先月、米ゲーツ国防長官の中国訪問中、中国軍が次世代ステルス戦闘機の試験飛行を行ったが、胡錦濤は事前に知らされなかったとして、物議を醸した。このことについて多くの謎が残されているが、核心的な問題はただ一つ。すなわち胡錦濤はステルス戦闘機の試験飛行を本当に知らなかったかどうかだ。もし知っていたなら何故このような愚かなショーを行なったのか、ということである。

 一カ月経った今、その意図が次第に明らかになってきた。

 ■胡錦濤の「事情知らず」はありえない

 中国軍は、あえて胡錦濤が米国防長官と会談を行う日を選んで、ステルス戦闘機の試験飛行を行い、しかも事前に民間人を通じてその関連情報を漏らさせた。

 もし胡錦濤が本当に試験飛行について知らされていなかったならば、彼の軍部支配権が実質的に失われたことになる。そもそも彼の軍部支配に水を差されているとされ、来年引退する時勢からすれば、このような異変が起きても不思議ではない。

 しかし、いかなる複雑な権力闘争があっても、米国防長官と会談する当日に、軍部が軍のトップに秘密でステルス戦闘機の実験飛行を行えるはずがない。

 なぜならこの挙動は、間もなく実現する胡錦濤の米国訪問を妨害することになるばかりでなく、国際社会に中共の内部闘争の実情を暴露し、中共の延命を固守するという最大公約数を棄却することになるからである。いわば、この行為は明らかに党を分裂させるものである。

 下り坂を辿る時期にもかかわらず、胡錦濤は党利維持という大義名分でもって、大局妨害、中共分裂の異端者を堂々と打撃することが十分可能である。これは中共史上で一定不変の鉄則であり、趙紫陽の失脚がその実例として遠くない。

 したがって、中共の党内ルールや史上の実例、そして現状から検証すれば、胡錦濤の「事情知らず」は全く考えられない。

 ■智の愚か、愚の智か

 現実論で言えば、胡錦濤の嘘は諸刃の剣である。少なくとも彼に対する国際社会の不信や反感を買うことになり、予知できない多くのリスクも避けられなくなる。

 周密に計算し小心翼翼と事を運ぶ慎重派と言われる胡錦濤だが、事前にこのようなリスクを予見しえなかったのか。これも常識的に考えて有り得ないことである。

 米国の空母が東シナ海に入って軍事演習を行ったことで「弱腰」と批判された胡錦濤は、軍内の強硬派や国内世論を落ち着かせ、その鬱憤を晴らすために、適切な方法で米国への仕返しをしなければならない。そのため彼は圧力のもとで、軍内・党内の強硬派から策定された試験飛行を応諾した上、嘘つきのキャラクターを演じざるをえなかったのである。この事からも、胡錦濤が政敵からキツくけん制されていることは明らかである。

 しかし、表では党利のために名誉を捨てることも辞さないと大義を担った胡錦濤だが、その裏には彼なりの一つの打算が隠れているのかもしれない。

 すなわち、この試験飛行はすべて次期指導者・習近平が周到に策定し実行したという情報を漏らす一方で、胡自身はこのやむを得ない愚行を通じて、国内外に「実権喪失の実態」を晒しておき、将来、中共への責任追及が行われた際に自らは逃れようとする、という策だ。先の先を読んで相手の計略の裏をかくという手も、胡錦濤の個性に適う行動パターンである。

 胡錦濤の行為は智の愚なのか、それとも愚の智なのか。中共崩壊の最後の一瞬にならないと、なかなか判断しえず、すべてのことが流動的である。

 <続く>

 

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