中国の環境基準 汚染の「元凶」に手綱を 違反も常態化

大気汚染の元凶の一つ火力発電所、吉林省長春・1月22日(Photo/Getty Images)

【大紀元日本3月25日】中国の環境基準の制定において、大気汚染の責任を問われる国有石油企業や電力企業が陰の主役であり、基準違反もこれらの企業の中で常態化している。ニューヨーク・タイムズ(NYタイムズ)は22日の報道でこう伝えた。

石油企業の駆け引き

同報道によると、ガソリンや軽油など自動車燃料の環境基準を決定する中国国家標準化管理委員会のチームは大手石油企業の構内に拠点を置いている。基準の審議は環境保護部(省)と同委員会、それぞれ30~40人のメンバーの中で行われ、メンバーのほとんどは石油企業からの出向だという。報道は、審議に参加した環境保護部の専門家・岳欣氏の話として伝え、「彼らはより企業の利益を重視している」という。

中国石油化工集団(シノペック)の傅成玉会長は1月、大気汚染の原因は「石油企業が基準を満たしてないのではなく、国家基準が低すぎるからだ」と発言していた。だが、石油企業がまさに基準の強化を阻止する力になっていることには、傅会長は言及していない。

国内の石油製品販売を握るシノペックと中国石油天然気集団(CNPC)は今まで、基準の強化にともなう精製設備の改良・更新費用は、消費者や政府が負担すべきだと主張してきた。この点で合意が得られなかったため、新基準の制定が遅れたという。「中国は基準を高めるべきだということにシノペックも異議はない。ただ、彼らは資金の出処をめぐって争っている」。中国環境保護部で働いたことのある国際クリーン交通委員会(ICCT)のデイビット・ワグナー研究員はこう指摘する。

石油企業のこういった駆け引きが政府の基準強化を遅らせたと岳氏らはみている。今年に入って大気汚染がいっそう深刻さを極めた2月に、温家宝前首相が国務院常務会議を開き、そこでようやく、自動車燃料の環境基準を日本や欧州連合並みに厳しくする方針を決めた。

しかし、「(設備更新の)コストが原因で、石油企業が依然として基準を無視する可能性はある」と同報道。2009年に、現行基準が導入された際にも、このような抵抗があったという。

火力発電業界、基準違反が常態化

石油業界は今、大気汚染の責任を「石炭」に押し付ける動きを見せている。今月北京で開かれた政治協商会議でシノペックの傅会長は「(空気の)最大キラーは石炭だ」と発言。中国のエネルギーの7割は石炭に依存していると紹介し、環境改善のネックは「石炭だ」と主張した。

傅会長の発言に責任転嫁の意味合いはあるものの、石炭を燃料とする工場は大気の大きな汚染源であることは確か。北京市当局の発表によれば、同市空気中の微小粒子状物質PM2.5の22%は自動車の排気によるもので、40%は市内と近隣省にある石炭を燃料とする工場が排出している。

環境保護部は2月、石炭を燃料に使う6つの業界を対象に厳しい排気基準を設けた。その中でもっとも大きなウェイトを占めるのは火力発電業界で、石炭消費量の半分はこの業界で消費されている。

しかし、厳しい基準があっても、国有大手火力発電企業は石油企業同様、面従腹背の態度を示している。NYタイムズの報道によると、中国の3つの最大手電力会社とも、国の排気基準を再三にわたり違反している。「規則違反の発電所は、中国全土に分布している。内モンゴルから南西部の重慶市まで至るところに」。環境保護部が発表した違反発電所のリストに上がっているのは、すべて大手国有電力会社に所属しているという。

一方、リストアップされた違反発電所は氷山の一角だと指摘する専門家もいる。カーネギー国際平和財団のエネルギー専門家の塗建軍氏はその理由に、監視設備を取り付けている発電所は極少数であり、メーターの数値も操作される可能性があると説明している。

罰金が軽微であることも違反が繰り返される原因の1つだとグリーンピース東アジアの周栄氏は言う。最高1万6000ドル(約150万円)の罰金は拘束力にならず、「生産停止などを講じる必要がある」と周氏は強調した。

曇る先行き

ドイツ銀行は先月末、中国の現行経済政策では今後10年間、石炭消費量と自動車台数はさらに大きく膨らむと報告した。自動車保有台数は2030年では今の1億台から4億台に増加すると予測。「すでに我慢できない大気汚染はさらに大幅に悪化するだろう」。その解決に必要なのは抜本的な政策の転換と、大手国有企業の既得権益を打破する「政府の強い決心」だと指摘した。

(翻訳編集・張凛音)
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