アングル:韓国の受験競争、大ヒット風刺ドラマでさらに過熱

Joori Roh

[ソウル 3日] – 韓国の悪評高い学歴競争社会を痛烈に風刺したケーブルテレビドラマが大ヒットしたことで、その警告を無視して、成功追求に熱を上げる視聴者も一部出てきている。

韓国ドラマ「スカイキャッスル(原題)」は、国内の一流大学に子どもを合格させて、高給が約束された仕事に就かせようと、全力を挙げる野心的な家族たちを描いた物語だ。その過程で、成りすましや自殺、殺人事件も発生する。

スカイキャッスルとは、韓国郊外にある架空の高級住宅コミュニティの名前だが、同時に韓国トップのソウル大学(S)、高麗大学(K)、延世大学(Y)の3校の頭文字でもある。

調査会社ニールセン・コリアによると、このドラマは、韓国のケーブルテレビとしては、歴代最高の視聴率をたたき出しており、隣国の中国でもファンを増やしている。

同ドラマは今週、最終回を迎えるが、韓国では製作者側が批判の意図を込めて描いた過激な教育手法をまねする人も出てきている。

例えば、勉強に集中するための広さ1平方メートルに満たない木製のクローゼット「スタディーキューブ」は価格が1台250万ウォン(約24万円)するが、このドラマに登場して以降、その売り上げが8倍に跳ね上がった。

「スカイキャッスルにスタディーキューブが出ていたのを見て、勉強に適した環境を作ろうと、自分の意思で買った」。ソウルにある一流大学の医学部進学を目指す高校生イ・ドギョンさん(16)は、そう語る。

勉強内容のみならず、睡眠パターンから友人関係まで事細かに指導する大学入試コーディネーターがドラマに登場すると、大学入試を専門とするコーチの需要が急増した。

Uway教育改革研究所のディレクター、イ・マンキ氏は、大学受験コンサルタント志望者向けのコースを50%増やす計画だという。

こうした現象は、ドラマが意図したものとは真逆の動きだ、とスカイキャッスルの主任プロデューサー、キム・ジヨン氏は言う。

「スダティーキューブに注文が殺到したり、入試コーディネーター探しに熱心な人が出ているというニュースは、脚本家が最も避けたかったものだ」とキム氏は言う。「脚本家は、自分の子どもの大学受験を経験して、行き過ぎた教育熱に警鐘を鳴らしたかったのだ」

<トイレで読書>

スタディーキューブが韓国に登場した7年前も、国内で議論を呼んだが、スカイキャッスルに登場したことで、プレッシャーの大きい韓国の学歴社会を問い直す声が改めて上がっている。

前出の高校生イさんは、キューブが届いたら、防音が施された環境に自らを隔離して、勉強に没頭することを楽しみにしていると話す。しかし、親がそれを子どもに強制する場合は、「米びつに閉じ込めるのと同じだ」と、18世紀に父の英祖によって米びつに閉じ込められて殺された思悼世子の悪名高い事件を引き合いに出して語った。

スタディーキューブの製造元EMOKのチョイ・キジュ最高経営責任者(CEO)は、隔離することで、学生は邪魔が入らずに集中できると話す。「単純な話だ。トイレにいるときの方が、集中して本を読めるだろう」

<人生を楽に>

ここ数年の雇用情勢の悪化を背景に、韓国社会の競争は激しさを増すばかりだ。

韓国統計庁によると、2018年の新規雇用9万7000件は前年の3分の1以下で、2009年以降で最低となった。

「求人が減っていることを反映して、予備校では就職を念頭にした競争が過熱しているようだ」と、韓国労働研究院(KLI)エコノミスト、キム・チョンウ氏は言う。

「韓国社会に広く根付いている、大学を卒業しないと働けないという考え方が、この過剰な教育熱の根本的原因だ」

高校では、午前9時から午後5時までの授業に加えて、自習するため何時間も学校に居残る生徒が多いという。「学院(ハグォン)」と呼ばれる私設の塾で、週末や祝日も夜遅くまで授業を受け、一流の学校や大学への進学を目指す生徒もいる。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、週60時間以上勉強していると答えた韓国学生は23%で、OECD加盟国の平均13%の倍近くになっている。

韓国では、教育機関向け支出が国内総生産(GDP)の5・8%と、OECD加盟国の中でも最高水準にある。また高等教育費用の半分近くを家計がまかなっているが、OECD加盟国の平均は22%にとどまっている。

また、4分の3の韓国学生が「大学を卒業するつもりだ」と回答しており、これもOECD平均の44%を大きく上回っている。

韓国教育部(省)は先月、大学に入ることだけが成功への道だとの考え方が、過剰な競争や民間教育産業の過熱を生んでいるとして、高卒者の採用を促進する計画を発表した。

同部では2022年までに専門高校卒業者の就職率を6割にし、職に就けない大学生を減らすと同時に、大卒者が敬遠する中小企業の人手不足解消を狙っている。

学校でのプレッシャーや、将来の就職への不安が、韓国における若者の高い自殺率の主要な原因だと考えられている。

統計庁によると、10─19歳の子どもの死因で、最大の31%が自殺だった。

社会発展研究所の調査によると、特に成績を心配している韓国高校生の40%が、自殺衝動を感じたことがあるという。また、韓国の子どもとティーンエイジャーの幸福度はOECD加盟国で最低水準だ。

それでも、厳しい韓国経済でより良い生活を求める多くの人たちにとって、一流大学進学は最善の賭けであり続けている。

「スカイキャッスルは極端かもしれないが、それでもトップ大学に入る価値は十分にある」と、ドラマに触発されて、今年受験する娘のために大学コンサルタントを雇ったクウォン・スンオクさんは語る。「そうすれば、機会が広がり良い就職ができる。人生は間違いなく楽になる」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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