アングル:対中関税でコスト増、米輸入業者が「新手の値上げ」

John Ruwitch Timothy Aeppel

[上海/ニューヨーク 25日 ロイター] – トランプ米大統領が対中関税を引き上げるつもりだとツイートした5月、カリフォルニア州にあるニューエア・アプライアンシズ社は、何か手を打たなければ窮地に追い込まれると悟った。

同社はビール用保冷庫、製氷機、その他家電製品の輸入をしており、調達先はすべて中国だ。昨年10%の輸入関税が導入された際にはコスト削減に取り組み、大型店など卸し先に取引条件の改善を求めて対処した。

だが、関税率25%への引き上げは、前回よりもはるかに対応が困難だ。

トランプ氏がツイートした翌日、ニューエアの経営陣4人はランチミーティングを開き、さらに思い切った改革プランの策定に着手した。マーケティング担当副社長のアンドリュー・スティーブンソン氏は「緊張感はあった」ものの、パニックというほどの状況ではなかったと振り返る

そこで出た結論は、商品ラインアップの大胆な刷新である。今年は50─60種類の新製品または製品の改良版を市場に投入する。この措置により、コストが上昇する中で、価格設定をゼロから見直すことができる。

約70種類の商品を取り扱うニューエアが、毎年導入する新製品は10種類以下。例年に比べ、非常に多くの商品を入れ替えることになる。

<「減量経営」に限界>

ニューエア同様、中国から製品を輸入する多くの企業は、米政府が2500億ドル(約27兆円)相当の中国製品に課税したことを受け、難しい事業判断と戦略の急転回を迫られている。

同じ商品ラインアップのまま値上げをすれば、たいていは消費者にも小売企業にも受け入れられない。自ら利幅を削り、賃金引き下げやレイオフなどでコストを削減する、生産拠点を中国から移転する、といった戦術が一般的となる。

ニューエアが選択した商品ラインアップの入れ替えというアプローチはかなりの投資が必要になるが、昨年から続く米中貿易戦争によって、企業が斬新な対応策を考えざるをえなくなっていることの表れだ。長期的な生き残りに向けて奮闘する中で、コスト削減といった「減量経営」に限界が見えているからだ。

中国に出張し、製品の調達先と面談したスティーブンソン氏は、「私たちはコスト削減ではなく、コストを少し増やそうとしている。だが長期的には、その見返りがあるだろう」と語る。

スティーブンソン氏は、製品開発のため調達先と密接に協力する一方、サンプル品を低コストの海上輸送ではなく空輸で送ってもらう措置も講じている。製品の認証取得プロセスを最大1カ月短縮する狙いだ。

「基本的に、プロセスを加速するためならどんなことでも検討している」と、同氏は話す。

従業員50人以上のニューエアは、このプロジェクトに「数十万ドル」を投じることになりそうだ。スティーブンソン氏が米中貿易戦争への対応に集中することが多くなっているため、マーケティング担当ディレクターをもう1人雇うことも検討している。

<「新製品戦略」戦略>

ニューエアは自社ブランドを販売するだけでなく、マジックシェフ、フリジデア、ペプシコ<PEP.O>などにOEM(相手先ブランドによる生産)で製品を供給している。関税による負担増をどう分担し合うかは、中国のサプライヤー、米国内の卸し先である小売企業との間で協議中だ。インドやメキシコから、一部製品を調達することも検討している。

それでも、新戦略の柱はやはり商品ラインアップの刷新である。

インターネットにつながるワインセラーや、油を使わず揚げ物を調理できるオーブンレンジなど、従来は販売していなかった製品に加え、一部旧型製品の販売を止め、それ以外の製品にも新たな在庫管理番号を付与する。これによってニューエアと取引先の小売企業は、改めて価格を設定することができる。

ニューエアと同様の製品を中国から調達し、多くを米国内で販売するカナダのダンビー・アプライアンス社のジム・エスティル最高経営責任者(CEO)は、この戦略を「新製品戦略」と呼んでいる。

「129ドルで仕入れていた小型冷蔵庫が149ドルになったら、怒るのは当然だ。だが、『こちらは新型で149ドルになります』と言えるなら、雰囲気はがらりと変わる。他の店でも同じ製品が149ドルになっていれば問題はない」

ダンビーでは約300種類の製品ラインのうち、通常1年のうちに入れ替えるのは30%だが、今年は80%を入れ替える予定だという。テクノロジーの進化を考えれば、製品の刷新には良いタイミングだとも話す。

「10年前なら、従来製品との違いをアピールすることは難しかっただろう。しかし、今は停電したら冷蔵庫からメールでお知らせが届く、といったような新機能がある」

年間売上高およそ4億ドルのダンビーは、製品ラインアップ刷新に要するコストを400万ドル前後と試算している。

これがうまく行けば、中国に打撃を与えることを意図した関税に伴うコストを、部分的に米国の消費者に転嫁することになる。だが、リスクはある。

「新製品をかなり高い値段で売ることになれば、需要にある程度の影響が生じる。余裕のある顧客がどれだけいるだろうか」と、北京の長江商学院でマーケティング論を教えるジン・ビン准教授は言う。

この貿易戦争はつまり「米国の消費者は中国製品を使うな」ということだと、同教授は続ける。「まさにそれが貿易戦争の効果だ」

ニューエアのルーク・ピーターズCEOは、製品の機能が向上すれば、小売企業も消費者も「25%の(価格)上昇」は大きくないと考えるだろうと語る。

「当社が卸している小売企業も収益を確保しなければならないから、商品の価値が上がっているかどうか目を光らせる。我々もさらに革新的な製品を提供せざるをえなくなる」と、ピーターズ氏は言う。

だが、ニューエアのような輸入業者が、値上げと需要の絶妙なバランスを見出せるかどうかはまだ分らない。

マーケティング担当のスティーブンソン福社長は、「今後半年から9カ月ではっきり見えてくるだろう」と話す。

(翻訳:エァクレーレン)

 

7月25日、米中の関税を掛け合う中、カリフォルニア州にある輸入業者ニューエア社は、取り扱い商品を刷新することで価格を上げ、乗り切ろうとしている。写真は同社の倉庫。5月24日、カリフォルニア州サイプレスで撮影(2019年 ロイター /Jane Ross)

 

関連記事
アメリカの宇宙関連の高官は、中国共産党が太平洋上空で密かに宇宙軍を強化しており、インド太平洋地域の安全保障を脅かしていると警告している
世界最大の仮想通貨取引所バイナンスの創業者で元最高経営責任者(CEO)の趙長鹏被告(47)に対し、米検察当局は23日、マネーロンダリング(資金洗浄)の罪で禁錮3年の実刑判決を求刑した。赵被告は昨年11月、反マネロン法違反の罪状を認めており、30日にワシントン州シアトルの連邦地裁で量刑が言い渡される。
全世界の若者から絶大な人気を博しているショートビデオ共有アプリTikTok。しかしアメリカでは最近、バイデン大統領がTikTokに関する新法に署名した。
中国共産党はWHOを代理人とし、米国に対する「ハサミ戦略」を始めるだろう。新たに進められているパンデミック条約がその引き金となる。
韓国最大の太陽光発電メーカーであるハンファ・ソリューションズ傘下のQcellsは中国江蘇省啓東市にある工場を6月30日に永久閉鎖する。