【紀元曙光】2020年1月20日

古代中国の神話に(ぎょう)という人物がいた。儒教では第一の聖人とされる理想の帝王である。その堯が統治者であった時、人民が平穏に暮らしているかどうか、お忍びで視察に出かけたという。
▼見ると、一人の農夫が鼓腹撃壌(こふくげきじょう)つまり自分の腹をたたき足で地面を踏み鳴らして、愉快そうに歌っている。「おらは、喉が渇けば井戸を掘って水を飲み、腹が減れば田畑を耕して食うさ」。
▼農夫は堯が聞いているとも知らずに、「だから帝王様なんか、おらにゃ関係ねえよ」と歌った。堯は、庶民のこの姿こそ世の中が良く治まっている証だとして、満足したという。
▼時代は下って現代中国。中国国家統計局は17日、2019年末の中国の総人口が(香港やマカオを除いて)14億人を超えたと発表した。驚くには及ぶまい。戸籍に載っていない人数を加味すれば、それ以前に14億の大台に乗っていただろう。
▼戸籍に載っていない人数とは、1979年から2015年まで実施された「一人っ子政策」の反動として、黒孩子(ヘイハイズ)という子どもが多く発生したことによる。それらが今日では成人となって、同じ社会に存在することを指す。
▼戸籍に載っていようがいまいが、人は水を飲み、飯を食う。神話の時代なら、自然状態のなかで人は働いて水と食糧を得るだろう。ところが今の中国はどうか。河川にも地下にも、安全に口にできる水はない。14億人の腹を満たす食糧が、果たして恒常的に確保できるか分からない。その一事だけでも、この重すぎる人口大国は、薄氷の上に乗っているのだ。