【紀元曙光】2020年9月3日

夏目漱石の『坊ちゃん』は、道後温泉で有名な伊予の松山が舞台である。
▼主人公は江戸っ子で、東京の物理学校を卒業したばかりの新任の数学教師。親譲りの無鉄砲の坊ちゃんだが、小説の中では、江戸時代がそのまま残っているような、未だに旧社会の松山で、終始「異星人」のように嘲笑の対象として扱われる。
▼松山中学の悪童たちによるイタズラがひどい。学校の宿直室で寝床に入った坊ちゃんだったが、布団の中に何やらもぞもぞと動くものがある。大量のバッタだった。
▼怒って、呼び出した寄宿生に誰がやったかと詰問する坊ちゃん。にやにや笑いながら、バッタとは何かと、とぼける生徒。その一匹を示して、これがバッタだと言うと、「そりゃ、イナゴぞな、もし」。
▼問題の本質をずらして相手を嗤(わら)うだけならば、実害は少ない。ただ、バッタであろうがイナゴであろうが、大地を覆うほど大量に発生して農作物を食いつぶす蝗害(こうがい)となっては、たまったものではない。米や麦といった、人間の主食となる穀物を全滅させることもある。古来よりそれは、日本においても、飢餓を招く一因となってきた。中国では、王朝を終焉させる前兆として、必ずといってよいほど流民の発生が見られたが、蝗害もその主要因であった。
▼大紀元も伝えているように、中国南西部をはじめ各地でイナゴによる被害が大きくなってきている。中国の官製メディアは、水害の被災者に食料を届ける「感動的な場面」を演出して流すだけで、本当に深刻な被害の実態は一切伝えない。恐るべし。イナゴは国を滅ぼすのだ。