【掌編小説】闇夜の涙 杜甫「石壕吏(石壕の吏)」より
左右の山が狭くなり、杜子美は山道を急いでいた足をゆるめた。
日暮れ時である。今のうちにどこか宿を探さねば、月もない闇に呑まれてしまう。この辺りは山辺なので、狼に代わって虎がでる。そう思っただけで、暗い茂みのなかから猛虎が躍りかかってくる気がした。
ものを探す目で辺りを見ると、屋根を草でふいた土塀の家があった。細い水の流れが家の前を通る。その貧家にも、まだわずかに人がいる気配があった。杜子美は、その流れをまたいで渡り、朽ちかけた家の戸口から「どなたか、おられるかね」と、つぶやくように訊いた。
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