「不眠は大脳退化の前兆か?」飲食の改善でリスク回避を

「欧先生。私は服用している薬のせいで、よく眠れません。毎晩、寝返りばかりしていて、とても辛いです」

私(欧瀚文)の外来患者に、こんな悩みをもつ人がいました。
64歳の女性で、長年にわたりパーキンソン病を患っていることもあり、確かに服薬の期間が長いのです。
服用している薬が睡眠に影響していることに加えて、脳の変性が原因していると考えられます。
 

ミトコンドリア代謝の低下」がまねく脳の炎症と不眠

基本的には脳内のミトコンドリアの機能を保護しさえすれば、脳の働きを維持することができます。

現在多くの研究によると、脳のミトコンドリアの活動度と神経変性疾患の関連性が示されており、脳の健康を保つため、ミトコンドリアの機能をどのように保護するかに重点が置かれています。

例えば、食事面からみると、脳はケトン体をエネルギー源としてミトコンドリア代謝を増加させることを好むため、「低炭水化物食」すなわち脂肪の割合を高くした食物を摂取すれば脳のミトコンドリアを保護する機能を果たし、退化を回避できることが分かったのです。

「あなたのミトコンドリアは代謝が悪いため、脳に炎症を起こしているのです」
私はこの女性患者の検査をおこなった後、彼女のミトコンドリアの機能、特に脂肪に対する代謝がよくないことを発見し、脳の炎症物質が上昇していることに気づきました。そこで私は、彼女のミトコンドリアの機能を調整することにしました。

まず食生活の改革から始めました。油脂の比較的多いものを食べるよう勧めるとともに、低炭水化物の食生活をアドバイスしました。もちろん、野菜や果物も炎症対策の重要なアイテムです。

治療としては、点滴によりビタミンB 1、B 2、B 3、B 5、リポ酸、カルニチンなど、ミトコンドリアの代謝を高めるビタミンを使うほか、高用量の魚油で体の炎症を抑えます。

さいわい治療効果は良かったため、「欧先生、本当にありがとうございました。最近本当によく眠れています!」という喜びの声が、彼女から聞かれました。
 

栄養欠乏による脳退化のリスク

近年、認知機能の低下や、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄小脳変性症などが特に懸念されています。

私たち医療者は、機能性医学の立場から患者の器官に備わっている機能に関心を持ち、健康あるいは亜健康の段階で、器官に悪影響を及ぼす要素を除くとともに、主として栄養摂取による体の代謝バランスを改善することを望んでいます。

脳が退化した患者は、脳の神経伝達物質が乱れやすいため、焦慮、憂鬱、記憶喪失、躁鬱などの情緒変化を引き起こします。また、神経変性疾患は不眠症の原因にもなります。

服用する薬が不眠症の原因となることだけでなく、体内の線状体の機能を理解することも重要です。そうすることで、脳が変性のリスクにさらされるのを防ぐことができます。

一部の人は、慢性疲労の問題を抱えています。もし原因が見つからない場合、細胞のミトコンドリアに必要な栄養素が不足している可能性があります。

脳は、思考と基本的な生理動作を行っているため、毎日身体の大部分のエネルギーを消費します。そこで、脳神経細胞のミトコンドリア機能が十分であるかどうかが重要な鍵となるのです。

しかし、ミトコンドリア機能は10数種類の栄養素に関係するため、その時に患者が栄養欠乏であるかどうかを判断するのは、機能性医学が病根を処理するうえで核心概念となるのです。

現在、社会における精神的ストレスは非常に大きく、脳神経の退行性疾患と認知症の発生率が増加しています。これは今の人々が最も懸念する問題の一つであると言えるでしょう。

老後を、いかに健康で楽しく過ごすかは、若い頃からの睡眠の質や脳の健康から始めなければなりません。
十分な脳機能を備えてこそ、安心して引退後の人生を楽しむことができるのです。
 

「脳を鍛える2つの方法」があります

脳内のミトコンドリアに栄養が不足すると、夜よく眠れないだけでなく、脳を退化させ、認知症などの神経変性疾患を引き起こすことにもなります。

その予防のため、リン脂質、セリン、コリン、イノシトール、トレオン酸マグネシウムなどの栄養素を摂取することで、脳神経伝導物の低下を遅らせ、神経伝導物のバランスを取り、また認知力および記憶力と脳細胞のつながりを改善することができるのです。

1、必要な栄養素を摂取する
ホスホリパーゼ:脳神経の主要な成分の1つです。脳の各種の酵素を活性化させ、神経伝達物質の減少を遅らせるとともに、損傷した脳細胞の修復、有害物質の除去に役立ちます。

イノシトール:健康な細胞シグナルの伝達を促進し、神経伝達物質の調節に参与し、情緒面の健康を促進する物質です。

トレオン酸マグネシウム:脳のマグネシウム濃度を高めるのに有効なマグネシウム化合物です。学習能力を高め、作業記憶、短期記憶、長期記憶を改善することができます。

年齢が高くなることで記憶力や認知機能が低下するのも正常な生理現象ですが、日常の飲食のなかで、大脳に有益な栄養素を適切に摂取することにより、大脳の衰えを軽減することは可能です。

2、「低炭水化物食」に替える
低炭水化物食とは、炭水化物が少なく、適度なタンパク質および脂肪が多い食事です。エネルギーの主要な供給源としてのグルコースではなく、ケトン体を利用する(脂肪を燃焼させる)よう身体を導くために、三大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)の摂取割合に変更を行ったということです。

ケトン体は、脂肪を燃焼する際に肝臓で作られます。
ケトン体は、ミトコンドリア内でATP (アデノシン三リン酸)を産生する際に脆弱なニューロン(脳の神経細胞)を保護し、フリーラジカルによる損傷を回避するとともに、ミトコンドリア数を増加させるため効果的に用いられています。

「低炭水化物食」と「絶食」はケトン体の製造を増加させ、これを脳へ提供するのと同じ利点があります。したがって「低炭水化物食」は、けいれん発作、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳腫瘍などのリスクを低下させるのに役立ちます。

「低炭水化物食」を実践できるかどうかは、医師や栄養士など専門家のアドバイスを受けて判断してください。
(文・欧瀚文/翻訳編集・鳥飼聡)