「うつ症状は肝臓の問題から生じる」漢方医が教える改善法

秋香さん(仮名)は、抑うつ症状をもつ女性です。

彼女は、心理学に興味をもち大学で心理学を専攻しました。思いかけず心の病について知識を得てから、自身の憂うつな気持ちはますます重篤になりました。授業にも出られなくなり、自分の体が崩壊しそうになっていたのです。

肝臓に何らかの問題がある」

彼女は何の理由もなく泣き、夜も眠れず、食事もとれなくなりました。抗うつ剤を服用していますが、気持ちの改善にはあまり役に立ちません。

漢方医師である舒栄氏は、秋香さんが初めて自身の診療所を訪れたときの様子を覚えています。彼女は体調がとても悪いようで、抗うつ剤を服用していたために反応も鈍くなっており、目にも力がありませんでした。

漢方医は、抑うつ症状やうつ病の原因について「肝臓に何らかの問題が生じている」と診ます。漢方医学でいう「肝臓」とは、必ずしも西洋医学における解剖学的な臓器の一つを指すのではなく、一つのシステムの概念を表す言葉です。

漢方医学では「肝主情志」と言うように、肝臓はすべての情緒を支配しています。そのため、過激な感情や不良な情緒をもった場合、まず肝臓を傷つけることになります。

うつ病患者は、物事を柔軟に考えることができず、心を開いて楽に考えることができなくなっています。しかも発散するところがないので、どんどん体の中にたまってしまいます。これにより、さらに肝臓の気が重く滞ることになるのです。

陸地に川や湖があり、やがてその水は海に流れます。これを人間の体に例えると、これらの水が川を滞りなく流れてこそ、体は健康を保てるわけです。

「流れるべき川がせき止められると、上流では洪水が起き、下流では干上がってしまいます。結果として広範囲に被害を及ぼします。憂鬱な気分も、これと全く同様なのです」と舒栄氏は言います。

うつ症状をもつ人が不眠や情緒不安定になりやすいのも、肝臓が損傷を受けているからです。漢方医学では「肝蔵血(肝臓は血液を蔵する)」と言います。血は陰性のものです。人は眠りに就くと、体内の陰陽が交わり、それぞれ盛んであった陰気と陽気が交わって熟睡状態に入ります。

「しかし、うつ病患者は肝血を消耗しており、陰気が不足しています。そのため陽気に接することができません。その結果が、不眠の症状になって現れるのです」と舒栄氏は説明します。

陰気は人を落ち着かせ、陽気は人を能動的にします。陰が傷つけられると心が落ち着かなくなり、ついイライラしやすくなるのです。

産後の女性に抑うつ症状が出やすいのは、なぜでしょうか。

妊娠中の女性は、大切なものを胎内の子供に与え、分娩中には大量の血気を消耗します。先述のことと同じ理由で、肝血の不足は、出産後の女性の情緒に直接影響するのです。その時こそ、夫や家族による精神的な支えが非常に重要になるわけです。
 

「2つの方法」で肝臓を養い、憂鬱な気分を改善します

うつ病患者や抑うつ症状が続いている人にとって、まず必要なことは何でしょうか。

まずは、自分で心を明るくして、楽しく物事を考えるように努めるのです。それができないから困っているのですが、やはりその方向性を見失ってはいけません。

さらに、可能な限り運動して気血の流れを促し、たまった気血を散らすことで、必ず気分が良くなります。

そのほか日常生活のなかでできることとして、舒栄中医師は、うつ病患者に以下の「薬膳のお茶(スープ)」と「足ツボ押し」の2つの方法を紹介しています。いずれも肝臓を養い、情緒を安定させる効果が期待できます。

甘麦大棗スープは肝臓の血を調整し、気を静めて、気持ちを落ち着かせます。(《談古論今話中醫》提供)

1、甘麦大棗スープ
甘麦大棗スープは肝臓の血を調整し、気を静め、気持ちを落ち着かせます。

常にストレスを感じている人は、ぜひ飲んでみてください。味に違和感がなければ、日常のお茶として常用できます。この処方箋は薬効が穏やかなので副作用がなく、出産後の女性も安心して飲めます。

材料は甘草(カンゾウ)、小麦、ナツメの実。鍋のお湯で煮て、そのまま服用します。
 

太沖と湧泉はどちらも肝臓を養い、憂鬱な気分を改善する働きがあります。(Shutterstock/大紀元製図)

2、足ツボ押し
太沖と湧泉はどちらも肝臓を養い、憂鬱な気分を改善する働きがあります。穴(けつ)は漢方でいうツボの意です。

太沖(太衝 たいしょう)のツボは、足の甲の親指と人差し指の骨が交わる位置です。

太沖は、肝経の基本となるツボで、気持ちをほぐす効果が高く、常に押すことができます。痛くて耐えられなくなる程度まで、押してもかまいません。

精神的な不快感を覚えたら、すぐにこのツボを刺激して、気持ちを楽にしましょう。

湧泉(ゆうせん)のツボは、足裏の人差し指と中指の骨の間にあります。

万能ツボとも呼ばれる湧泉は、腎経第一のツボです。「湧泉とは、このツボから生命の泉が湧き出ているという意味です」と舒栄氏は言います。

湧き水が出たばかりの時は小さい流れですが、蓄えている力は巨大です。「どんどん大きくなり、それが川や湖や海になるまで、湧泉を刺激して命の水を強くするのです」と舒栄氏は熱く語ります。

では、なぜ腎経のツボを押すのでしょうか。うつ病に対しては、肝臓を補うのが治療の目標なのですが、そのために、まず腎臓を補うのが治療の基本だからです。

うつ病の人は、腎臓の精(訳注:漢方医学でいう精とは、精液ではなく、男女を問わずあり、気の元となって人体を構成する基本物質を指します)が不足しがちで、体が弱っています。

また腎臓は五行(ごぎょう)でいう水に属し、肝臓は木に属します。「水生木(水は木を生じる)」つまり腎臓を補うことは肝臓を補う作用を果たすことになります。

うつ病患者や抑うつ症状のある人は、毎晩寝る前に湧泉のツボを300回押してみてください。そうすることで症状が緩和され、よく眠れるようになります。

「病の根本原因を除くこと」が大切

うつ状態がひどく、すでに病気になっている場合は、医師に体を調整してもらう必要があります。

漢方医学に「急則治其標、緩則治其本」という言葉があります。分かりやすく言うと「短期的には、その目標に対して痛み止めや対処療法的な薬を使う。長期的には、その病気の根本的な原因がなくなるよう、体質の改善や日常生活の改善をおこなう」ということです。

冒頭に紹介した秋香さんという患者の治療では、舒栄氏はまず彼女の肝臓を整えることを治療目標にしました。これは漢方医がとる、うつ病治療の基本です。

彼女は病気がかなり長引いていて、腎精も欠乏しているため、腎臓を調整する必要がありました。また、食事がとれず、脾蔵や胃もよくなかったので、脾胃の治療も併せて行いました。

鍼灸と漢方薬により、数週間かけて治療した結果、秋香さんの精神状態はほとんど回復しました。睡眠も十分とれるようになり、食欲も戻ってきたのです。

以前は人より体が弱かった秋香さんでしたが、現在は、周囲の友人よりも良い健康状態を保っています。彼女のうつ病は、どうやら消えたようです。

(文・柯弦/翻訳編集・鳥飼聡)