【芸術家の知られざるエピソード】スイートグラス

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1890年代、動物の絵画を得意とするフランスの写実主義画家のローザ・ボヌール(1822~1899)は創作途中の動物のスケッチを見て、悩んでいました。走り回る動物たちの力強い肉体、生命力にあふれたこの場面で、唯一満足できなかったのが草原でした。ローザは北アメリカ西部の大草原の様子を全く思い浮かべられなかったのです。

幸い、ある若い女性画家――アンナ・クルンプケ(1856~1942)が間もなくアメリカへの旅行に出発することを知り、彼女に重要な任務を託しました。それは「スイートグラス」を見つけ、実物を持って帰ってくることです。

ローザを崇拝していたアンナは快く引き受けましたが、これは簡単にできることではありませんでした。当時、スイートグラスは人のいない大平原に生えていたのです。機関車がアメリカ西部の大平原を通った時、アンナは運転手に一時停止を申し出ました。案の定、運転手は「雑草をむしり取るために機関車を止めるだと?冗談も休み休み言ってくれ」と笑い出しました。

しかし、アンナは諦めず、「これはフランスのある画家の願いなの」と事の経緯を運転手に説明しました。

当時、ローザの名声はすでにアメリカにも届いていたので、状況を理解したその運転手の態度ががらりと変わり、「彼女のためなら、どこにだって止めてやるさ!」とアンナがスイートグラスを取って戻って来るまで機関車を停車させました。

しかし、残念なことに、スイートグラスが入った郵便物は郵送の途中、行き先を間違えてローザのところに届きませんでした。

それでも、アンナの努力は無駄にならず、お礼としてローザはアンナの依頼を受け入れ、肖像画のモデルになりました。このことをきっかけに2人の画家は親友となり、アンナはローザが息を引き取るまで彼女と生活し、世話をしたそうです。

(作者・史多華/翻訳編集・天野秀)