台湾が防空壕の整備を進めている。対中関係が緊迫化している上、ロシアのウクライナ侵攻もあり、中国による攻撃の可能性が改めて危惧されているためだ。写真は有事に防空壕として使用される地下駐車場での訓練で、口を開けたまま目と耳を手で覆って避難する人々。7月22日、台北市で撮影(2022年 ロイター/Ann Wang)

アングル:有事に備える台湾、商業施設や地下鉄に防空壕4600カ所

台北 2日 ロイター] – 台湾が防空壕の整備を進めている。対中関係が緊迫化している上、ロシアのウクライナ侵攻もあり、中国による攻撃の可能性が改めて危惧されているためだ。

中国がミサイルを撃ち始めた場合に備え、防空壕として使える場所を分かりやすく指定する。専用の防空壕ではなく、地下駐車場や地下鉄網、ショッピングセンターの地下などのスペースを活用するという。

台北にはこうした防空壕が4600カ所以上あり、市の人口の4倍以上に当たる約1200万人を収容できる。

地下のショッピングセンターで最近、友達とダンスの練習をしていたハーモニー・ウーさん(18)は、そこが有事の際には防空壕に転用されると知って驚いた。だがその理由は理解できると言う。

「防空壕を準備しておくのは、すごく必要なこと。いつ戦争が始まるか分からないし、防空壕は私たちを守ってくれる」とウーさんは語る。

「戦争は残酷だ。私たちは経験したことがないから、準備ができていない」

台湾当局は防空壕のデータベースを常に更新し、スマートフォンのアプリに位置情報を掲載している。人々に最寄りの防空壕を見つける方法を知らせるため、ソーシャルメディアやポスターを使ったキャンペーンも始めた。

防空壕の入り口にはA4サイズ程度の黄色いラベルが表示され、最大収容人数も記されている。

防空壕を管轄する台北市建築管理弁公室の主任、アバクロンビー・ヤン氏は「ウクライナの戦争を見るといい。罪のない市民が攻撃されないという保証はない」と語る。

「市民全員が危機を警戒する必要がある。中国共産党から攻撃された場合に備え、防空壕が必要だ」

<ストレスは感じない>

台湾は7月、新型コロナウイルスの感染拡大で定期訓練が途絶えて以降、初めてとなる本格的な軍事防空訓練を実施した。

ミサイルが飛来した場合、市民は地下駐車場に避難し、爆風による衝撃を最小限にとどめるために目と耳を手で覆い、口は開けておくよう指導されている。

一段の準備強化を求める声もある。

現行の法律では、当局は防空壕を清潔に保ち、開放しておくよう求められるが、食糧や水などの備蓄は義務付けられていない。議会の調査員らは6月、防空壕に非常用物資を備えておくべきだと訴えた。

与党・民主進歩党の呉怡農議員は、市民が防空壕に持ち込めるサバイバルキットを準備しておくべきだと言う。「重要なのは、長期間の滞在に備えて何を持ち込むかだ」と述べ、医療用品や簡易トイレの組み立てキットを挙げた。

数十年に及ぶ中国とのつばぜり合いを経験してきた台湾市民の多くは、中国による侵攻の脅威を感じながら生きることを覚悟しているようだ。

ウーさん同様、地下でダンスの練習をしていたテレサ・チャンさん(17)は「ストレスは感じない。普段通りの生活を続けるだけだ。起きる時には起きるから」と語った。

(Yimou Lee記者、 Fabian Hamacher記者、 Ann Wang記者)

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