六芸ーー教養ある君子(紳士)に育つための6つのスキル(上)【雅(みやび)を語る】

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昔は、礼(道徳教育)、楽(音楽)、射(弓術)、御(馬車を操る技術)、書(文学)、数(算数)の6つのスキルを、「六芸」と呼び、君子(紳士)が身に着けるべき基本教養として非常に重んじられていました。「礼」が最初に来たのには、深い意味があります。「礼」は礼儀という意味の他に、秩序も含まれています。『周礼』 (中国の経書で,十三経の1つ)によると、社会各分野の官職は天官・地官・春官・夏官・秋官・冬官と大きく6つ(六官)に分けられ、それぞれに60の官職が属していました。

隋唐の時代に、六部制度ーー「吏」「戸」「礼」「兵」「刑」「工」の6官庁が形成され、清王朝まで続きました。この六部制度は『周礼』の中の六官に由来しています。
吏部は天官に対応し、文官の人事を管理します。戸部は百姓の戸籍や土地管理、財政などを担当するので、地官に対応します。礼部は春官に対応して、主に祭祀と教育を司ります。兵部は夏官に対応し、文字通り、軍事や武官の人事などを管理します。昔、罪人を処刑する時は、基本的に秋に行われていたので、司法を司る刑部は秋官に対応します。そして、冬は農作業の暇な時期なので、この間に家を建てたり、建物の改装工事などが行われており、そのため、土木に関する政務を担当する工部は冬官に対応しているのです。

このように社会制度が健全化された後、「礼」をもって人と人の間の秩序を律するようになりました。夫婦や親子、兄弟、友人、君臣などの関係はもちろん、冠婚葬祭もこの「礼」に含まれます。しかし、秩序がしっかり守られるようになると、長幼の序と尊卑の差により、人々の仲が徐々に疎遠になってきたため、この問題点を改善するために「楽」が生まれました。

戦国時代初期の諸侯の墓ーー曾侯乙墓(そうこういつぼ)で、1組の編鐘(音高の異なる複数の鐘を枠に吊るした、青銅製の打楽器)が発掘されました。これにより、我々は先秦時代の音楽を知ることができたのです。中国文化の中には「士无故不撤琴瑟」という言葉があり、「文人は家族が他界したり、その他よほどの事情がない限り、琴瑟を手放してはいけない」という意味です。また、「琴瑟」は夫婦、あるいは夫婦の間の愛情についてのたとえでもあるので、よほどの理由がない限り妻を替えたりしてはならないという意味もあります。話を戻しますが、昔の文人たちはこれほど音楽を重視していたのです。

 

曾侯乙編鐘(湖北省博物館:パブリックドメイン)

 

では、なぜ「楽」は2番目に来るほど大事なのでしょうか?人間は生まれながらにして喜怒哀楽など様々な感情を持っています。感情はその人の心身の健康に深くかかわっているため、どの感情が高ぶっても実は、身体によくないのです。『黄帝内経』には、「喜傷心、怒傷肝、思傷脾、悲傷肺、恐傷腎」と書かれています。「喜びすぎは心臓に負担がかかり、怒りは肝臓を傷める。煩悩は脾臓を損ない、悲しみは肺を痛め、恐怖は腎臓を傷つける」という意味です。

五行思想によると、音楽の中の宮、商、角、徴、羽の五音はそれぞれ心、肝、脾、肺、腎に対応しているため、五音を調節して使うことで、ストレスを和らげ、心身をリラックスさせることができます。

しかし、昔は、すべての音楽が「楽」に含まれるわけではありませんでした。音楽は「声」「音」「楽」の三段階に分かれ、音を出せるもの、例えば水の流れる音や鳥のさえずりなどは皆「声」に属し、リズムのあるものは「音」に含まれます。人の心を浄化し、精神の境界を高めることのできる音だけが「楽」と呼ぶことができ、このような楽を「優雅で格式の高い音楽ーー雅楽」とも呼んでいます。

良き音楽は人の気持ちを落ち着かせ、セラピー効果があります。しかし、良くない音楽は人の欲望を掻き立て、自我を失わせることができ、このような音楽を「退廃的な音」と呼んでいます。歴史上、何人もの君主がこのような音楽に夢中だったために国を滅亡まで至らしめました。例えば、周の武王が殷の紂王を討ち、紂王の罪状を布告した時、その罪状の1つが、淫らな曲を作り、女性をはべらかし、朝廷の規律に違反したという内容でした。

中国の5千年の文化はあっという間に過ぎ去り、現在、昔の優雅で格式の高い音楽を知る人は少なくなりました。皆さんは「神韻芸術団」をご存じでしょうか?近年、「神韻芸術団」が世界中で巡回公演を行い、多くの国家の著名人たちが「失われた中国文明を再び目にした」などと賛嘆しています。

「神韻芸術団」が創作した演目は人々を古代の中国へと導き、かつて輝かしかった伝統文化を再現しています。「神韻芸術団」の音楽を通じて、多くの人が人生の意義を見つけたり、一体何のために生きているのかを深く考えたりするようになります。穏やかで清らかなメロディは心の中へ流れ込み、煩悩を消し、心を浄化してくれます。だからこそ、「神韻芸術団」は多くの芸術家やアーティスト、学者、そして、各業界のエリートたちに好かれているのかもしれません。

(翻訳編集 天野秀)

雅蘭