戦時下のウクライナ大統領が広島空港に降り立ち、7カ国の首脳が原爆慰霊碑にそろって献花する映像が全国に流れたG7サミットは、岸田首相の支持率に追い風になりそうだ。写真は21日、広島で会見する岸田首相。代表撮影(2023年 ロイター)

アングル:解散観測に浮足立つ永田町、岸田首相に吹くサミットの風

[東京 22日 ロイター] – 戦時下のウクライナ大統領が広島空港に降り立ち、7カ国の首脳が原爆慰霊碑にそろって献花する映像が全国に流れた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、岸田文雄首相の支持率に追い風になりそうだ。首相は広島からの会見で解散の可能性を否定したが、与党内には勢いを駆って選挙に打って出るべきとの声もあり、永田町は浮足立っている。

国内メディアがサミット開催中の週末に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は10ポイント近く上昇した。読売新聞は前回の47%から56%に、毎日新聞は36%から45%に改善した。

岸田首相はライフワークである「核なき世界」を被爆地の広島から訴えることにこだわり、バイデン米大統領をはじめとしたG7首脳による原爆資料館訪問を実現した。インドやブラジルなど、ロシアに厳しい姿勢を取らない国々の首脳を招待してウクライナのゼレンスキー大統領と引き合わせた。

万博相や防衛副大臣を務めた自民党の若宮健嗣衆議院議員はロイターの取材に、「ゼレンスキー大統領訪日は世界で大きく報道され、それによって力による現状変更を国際社会は認めるものでないことを発信できた。その意味でも岸田総理のリーダーシップは非常に大きかった」と語り、サミットを評価した。

2021年10月に発足した岸田政権の支持率は、旧統一教会問題などもあって20%台半ばから30%台の低空飛行が続いた。それが今年3月に韓国との関係改善に道筋をつけ、ウクライナを訪問すると底を打った。4月の統一地方選挙は衆参補選で4勝1敗ながら接戦だったが、与党内では「反転上昇傾向にある政権支持率に(サミットで)弾みが付きそうだ」(自民中堅幹部)との声が広がる。

法政大大学院の白鳥浩教授は、「ゼレンスキー大統領を招いたことで政権支持率が最高潮に達するとみられ、解散にいまほど条件の良いときはない」とみる。

もともと自民党若手の間には、統一地方選挙で勢力を拡大した日本維新の会の準備が整う前の解散総選挙を望む声が出ていた。そこにサミットの風が吹いた。自民党幹部の1人は、「勝てるときにやるのが選挙」と話す。内外景気が今後悪化する可能性があるとし、「6月21日の今会期末までに解散するしか時期はない」と語る。

解散観測は野党にも根強く、立憲民主党幹部は「サミット後に自民党が実施する選挙予測調査の結果を受けて首相が早期解散有無を判断するのではないか」とみる。

だが、いま解散総選挙に踏み切ると来年秋の自民党総裁選までには距離がある。その間に岸田降ろしが起きる可能性もあり、首相が長期政権を狙うなら、総選挙に勝利した勢いで総裁選に臨むほうが理にかなっていると、別の自民党議員の1人は解説する。

「今国会での解散はない。早くても秋の臨時国会で補正予算とセットでの判断となるのではないか」と、内閣府関係者は言う。

岸田首相は21日、サミットの議長国会見で解散の可能性を問われ、「重要な政策課題に結果を出すことを最優先で取り組んでいる」とし、「いま解散、総選挙については考えていない」と従来の見解を繰り返した。

それでも解散観測はくずぶる。秋以降に先延ばしすれば、増税が争点になる可能性があるためだ。「少子化対策、防衛増強の財源議論が本格化するため、増税が争点になれば選挙は勝てない」と、元自民党幹部職員で政治評論家の田村重信氏は指摘する。

G7前にロイターが確認した今後の政治日程によると、最短で6月27日公示(7月9日投開票)、7月11日公示(7月23日投開票)とする想定に加え、9月以降も複数の日程候補が並ぶ。

岸田首相は21日の議長国会見冒頭、広島から核廃絶を発信する意味を訴えた。そして会見終了後に核軍縮の道筋について追加で問われると、演壇に戻って再び発言し始めた。

国会運営に詳しい政府関係者の1人は「広島で会見する岸田さんの姿からは2005年の『郵政解散』前の小泉純一郎さんを思い出させる雰囲気があった」と話す。

(竹本能文、杉山健太郎、山口貴也 編集:久保信博)

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