LGBT関連の飾りをつけた米国のスクールバス。(Photo by ROBYN BECK/AFP via Getty Images)

【寄稿】ドキュメンタリー「性別移行の語られざる現実」が教えてくれること


The Epoch Timesが制作したドキュメンタリー「性別移行の語られざる現実(Gender Transformation: The Untold Realities)」を観た。これは、思春期に揺れ動く10代の少女が、米国を席巻するトランジェンダー・イデオロギーに取り込まれて行く様子を描いた実話に基づく再現ドラマだ。複数の実在の人物が登場して証言する。非常によくできているが、観終わって絶望感に襲われる。西洋社会がここまで病んでいるのかと驚きを禁じ得ない。周回遅れで欧米の失敗を繰り返す日本の悪い癖を出さないためにも、全ての親と、親になろうとしている人は絶対に観るべきだ。


この作品を観ていて私の脳裏に浮かんだのは、自由主義の限界と崩壊の予兆である。階級闘争論をベースとする共産主義はソ連の崩壊で滅びた。ファシズムはナチスドイツの滅亡で消滅したかに見えたが、現在の中国や北朝鮮は極端な国家主義である点において、共産主義の皮を被ったファシズムとも言える。問題は我々が信奉する自由主義である。本来、自由主義無くして資本主義はない。自由主義とは個人が様々な制約から解放されるべきという思想であり、自由に行動する個人が資本主義の担い手となる。だから本来、資本主義は制約を嫌う。自由民主主義という概念があるが、自由主義を基盤とする資本主義が発展するにつれて、資源や市場や労働力を求めて帝国主義に発展したのは皮肉である。帝国主義は他国の自由民主主義を否定するからだ。


常に制約からの解放を求める自由主義が行きつく先は何か?あるロシアの思想家はかつて、「自由主義をとことん追求して行けば、男か女かという性別からの解放を求めるようになる」と主張した。それは見事に的中し、今、アメリカを始めとする自由主義陣営でLGBTなる概念が暴走し、性別からの解放どころか、思春期の子供たちの精神まで破壊している。これが自由主義の末路だとしたら、その思想家の考察は正しかったと言えるのかもしれない。

LGBTが自由主義の末期症状であるならば、そこには必然的に資本主義の末期症状も加わっていることを私は指摘したい。ドキュメンタリーに出て来るジェニファー・ビレク氏は私も共演したことがあるが、彼女はLGBTムーブメントの背後には巨大な資本と様々な業界が利権を求めて蠢いていると指摘している。そうでなければ、少数派のLGBTがここまで大きなムーブメントになるはずがない。特に巨大な資本を投下してトランスジェンダーをターゲットにしているのが医療業界である。高価な性転換手術、一生飲み続けなければならないホルモン剤など、トランスジェンダーを商売のネタとして捉えている。さらに、法律事務所や大手小売業者まで、様々な業界が利権に群がる。そのモラルなき強欲資本主義が、歪んだイデオロギーと結びつくとどうなるか?驚くべき強力な政治力を発揮して、家族を分断し、個人を破壊する。


ドキュメンタリーの中で、医者たちが、身体と性自認の不一致に悩む子供たちを診察する際、その理由を探求したらライセンスをはく奪されるというくだりがある。生まれながらの性同一性障害は存在するが、全く別の理由で性転換を望むようになるケースもある。たとえば、幼少期に性的暴行を受けたりした場合である。トラウマを発端に、男性器に嫌悪感を覚えるが故に自らの男性器を切除して女性になろうとするような、精神的病が原因であったりする。医者の本来の役割は、丁寧なカウンセリングで本当の原因を探し出し、それを取り除くことだが、その本来の仕事をすることは許されず、ひたすら性転換願望を認めて奨励することを求められる。職を失いたくない医者は矜持もなくそれに従う。

そして、もし両親が娘や息子の性転換願望に基づく投薬や手術に反対すれば、虐待とみなし、活動家は子供たちに親を訴えるように仕向ける。ここに弁護士の利権も発生する。親から引き離された子供たちは投薬治療や性転換手術に導かれ、二度と後戻りできなくなるばかりか、生涯にわたる障害を背負うことになり、精神が崩壊して自殺にいたるケースもある。強欲な資本主義はかつて帝国主義となり、外国や異文化を征服して搾取することで拡大した。それがついに、自国の子どもたちの精神と身体を市場と定めて貪るに至った。この所業があまりにも不道徳で反キリスト・聖書であることから、サタニズム(悪魔崇拝)と結びつけて説明しようとする人々もいるぐらいだ。少なくとも、自由主義と資本主義の断末魔と言っても過言ではないのだろう。

では、我々はいったいどうしたらいいのか?まず、子どもたちを守ることである。本当の性同一障害は存在する。それはしっかりケアすべきだ。しかし、一般論として、思春期において自分の性について揺れ動いてもまったく問題ない。女性的な男子や男性的な女子がいても完全に自然なことである。不可逆的な医療行為は最後まで保留すべきだ。大人が煽って判断を誤らせるようなことがあっては絶対にならない。このドキュメンタリーは強烈な反面教師となっている。

「散切り頭を叩けば、文明開化の音がする」明治以来、日本人は西洋文明を取り入れ、西洋から学ぶ姿勢を取り続けて来た。しかし、近年になって、模範として来た西洋文明が音を立てて崩れはじめ、今や退廃の果てに腐臭を放つに至っている。元々キリスト教国ではなく、アンチテーゼとしてのサタニズムとも無縁な日本は、西洋の狂気と距離を置いて、独自の道を行かねばならない。三方良し、が日本の資本主義である。日本には歴史に育まれた道徳と良識を基盤にした文化がある。今はルネッサンスのごとく、独自の良き伝統を見直して、再び開花させるべきときなのだ。

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