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人工関節からの金属が血液と脳に入る可能性=研究

新たな研究によると、大型関節の置換手術を受けた患者は、血液、脳、脊髄液中の一部の金属濃度が上昇し、長期的に神経に悪影響を及ぼす可能性があることが明らかになりました。

アメリカでは、年間約79万件の膝関節全置換術と54万4千件の股関節置換術が行われており、高齢化の進展によりこの件数は今後さらに増加すると予想されています。
 

懸念:脳に侵入する金属

『JAMA Network Open』に最近掲載された「NeuroWear」パイロット研究では、人工関節(インプラント)を持つ103人と持たない108人の比較調査が行われました。

インプラントを持つ患者では、血液および脳脊髄液(CSF)中の金属濃度が高く、特にコバルトが中枢神経系に到達する可能性が示されました。

インプラントグループのCSF中のコバルト濃度は0.03マイクログラム/リットルで、対照グループの0.02マイクログラム/リットルより高い値でした。

コバルトに加えて、インプラントを持つ患者では、血中のクロム、チタン、ニオブ、ジルコニウムの濃度も上昇し、一部はCSFでも検出されました。特にコバルト-クロム-モリブデン合金製のインプラント部品を持つ患者は、より高い金属濃度を示しました。

チタンおよびコバルト-クロムは、人工関節において最も一般的に使用される金属です。コバルト-クロム-モリブデン合金は、強度、耐久性、耐腐食性に優れ、特に膝や股関節の金属部品に広く用いられています。ただし、耐摩耗性や生体適合性を高める目的で、アルミナやジルコニアなどのセラミック材料が一部に使用されることもあります。

研究者たちは、手術後の金属濃度の上昇が神経に与える影響について、深刻な懸念を示しています。

コバルト、チタン、ニオブはいずれも神経毒性の可能性が知られており、この研究結果は、関節置換術後に新たな、あるいは悪化した神経・精神症状を示す患者にとって重要な情報になると述べています。また、今後の整形外科用インプラントの材料選びにも影響を及ぼす可能性があるとしています。

アメリカ食品医薬品局(FDA)は、関節インプラントを持つ患者に対する明確なコバルト血中濃度の許容基準を設けていませんが、金属イオンの検査を検討し、患者の症状と照らし合わせて判断するよう推奨しています。

「この横断研究により、人工関節インプラントに慢性的にさらされることで、血液および脳脊髄液中に該当する金属が蓄積されることが明らかになりました」と著者は述べ、これらの金属濃度は健康への影響を評価する上で考慮すべき要素だと付け加えました。

本研究は、ドイツ・ベルリンのシャリテ医科大学が2018年4月から2019年11月にかけて実施し、すべてのサンプルに対してブラインドテストを行うことで、偏りのないデータ収集が行われました。研究には204人が参加し、うち女性118人、男性86人、中央値年齢は約69歳でした。
 

時間の経過とともに摩耗がインプラントを劣化させる

金属を含むインプラントは長年にわたり使用されており、その構成材料には大きな改良が施されてきたと、アメリカ病理学会毒性委員会のメンバーであり、アメリカ法医毒性学会フェローでもあるロバート・ミドルバーグ氏はエポックタイムズの取材に応じました。それでも彼は、「他の可動デバイスと同様に、時間の経過とともに摩耗が起こる可能性があります」と述べています。

金属製インプラントが劣化すると、周囲の組織や血流に微細な粒子を放出することがあり、これは「メタローシス」として知られる状態を引き起こすと指摘されました。インプラントは血液や関節液といった生体液に常にさらされており、これが材料の劣化を促進する要因になります。

ミドルバーグ氏によれば、有害な影響の可能性は、インプラントの種類(位置や化学的構成)、環境の腐食性、さらには患者ごとの生物学的特性など、さまざまな要因によって異なります。したがって、メタローシスによる健康への影響は、局所的にも全身的にも現れる可能性があると述べています。

局所的な影響としては、皮膚組織などの局所反応が見られ、通常は金属に対する免疫反応と関係しています。これによって、痛みや筋力の低下が生じることがあります。

金属イオンがインプラント周囲から血流に乗って体内を巡ると、「主に心臓、腎臓、肝臓、内分泌系、神経系などの臓器に特異的な毒性を引き起こす可能性がある」とミドルバーグ氏は述べています。

研究の著者たちは、このパイロット研究で確認された高濃度の金属に関連する潜在的な神経毒性の影響をより深く理解するために、さらなる研究が必要であると強調しています。特に、関節置換手術後に新たな、あるいは悪化する神経症状を経験する患者において、その必要性が高いとされています。
 

金属毒性は治療可能

「特定の金属の非常に高い濃度が確認された場合、それが患者の症状や兆候と一致するのであれば、インプラントによる金属毒性の診断を裏付けるものとなります」と、ロバート・ミドルバーグ氏は述べています。

金属毒性の症状は多岐にわたり、局所的な痛みや炎症にとどまらず、神経障害、聴力の低下、視力への影響、さらには臓器への損傷など、全身的な問題を引き起こすことがあります。

ミドルバーグ氏によると、インプラントによる金属毒性を経験している人々に対しては、治療法が存在します。

その一例が「キレーション」と呼ばれる療法で、金属イオンと結合してそれを体内から排出する物質を使用します。これにより、有害な金属の蓄積を防ぐことが可能です。ただし、ミドルバーグ氏は、キレーター自体にも特有の毒性プロファイルがあり、場合によっては深刻な副作用を引き起こす可能性があるため、慎重な対応が必要であると警告しています。
 

ほとんどの患者には影響がない

こうした発見にもかかわらず、ミドルバーグ氏は「インプラントを受けたほとんどの人は、金属による毒性の影響を経験しません」と述べています。

「圧倒的に多くのケースで、インプラントからの金属毒性は見られません。しかし、毒性物質全般に共通するように、一部の人は他の人よりもその成分に対して敏感である可能性があります」と補足しました。

さらに彼は、血液や尿の中から金属が検出されたからといって、それが直ちに毒性を意味するわけではないと述べています。人は他のさまざまな環境要因からも金属にさらされている可能性があり、同じ濃度の金属でも、個人差により異なる反応を示すことがあります。

(翻訳編集 日比野真吾)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。