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腸が脳と全身を左右する 善玉菌を育てる食習慣

ある高齢者が認知症とパーキンソン病を患っていました。介護をしていた家族は、排便が順調なときは頭がはっきりしていることに気づきましたが、パーキンソン病の薬の副作用で便秘になると、意識がぼんやりして自分の子どもすら認識できなくなることがあったそうです。

これは、腸の問題が脳の健康に影響する一例として、台湾の中医師・陳俊如氏が紹介したケースです。陳氏によれば、パーキンソン病の薬だけでなく、認知症の薬や睡眠導入剤も腸の蠕動運動に影響を与えることがあり、便秘を引き起こす可能性があります。こうした患者は特に、食生活の見直しやプロバイオティクスの補給によって便秘を改善することが重要だと述べています。なぜなら、腸と脳の健康は密接に関わっているからです。

近年の研究では、腸と脳は「腸脳軸」と呼ばれる複雑な双方向通信システムでつながっていることが明らかになっています。これは内分泌系、免疫系、自律神経系、腸の神経系などを含み、腸内細菌はこの中で重要な役割を果たしています。腸内環境の状態は、うつや不安などの精神疾患にも影響する可能性があります。

陳氏は、中医学の理論において「脾胃は後天の本」とされていると語ります。中医学では、脾と胃は一つのエネルギー体系に属し、脾は免疫機能に加えて、エネルギーの面から腸や胃を含む消化系全体を司るとされています。消化系の健康が保たれれば、生まれ持った体質の弱点を補うことができ、全身の健康状態が向上するのです。
 

消化器系と「思考」の関係

中国最古の医学書『黄帝内経』では、内臓と感情には対応関係があり、脾(ひ)と関わる感情は「思」、つまり思考だと記されています。台湾の中医師・鄧正梁氏は、「考える力」や「記憶力」を保つには、脾胃(消化器系)が健やかであることが不可欠で、また、ネガティブな思考にとらわれず、正しい心を保つためにも脾胃の強さが必要だと述べています。一方で、思い悩みすぎると脾を傷め、食欲不振、胃の張り、めまいなどの不調を引き起こすとも語っています。

チベット仏教の僧侶56人を対象とした研究では、腸と脳のつながりが証明されました。瞑想を日常的に行う僧侶の腸内環境は、同じ食事をする一般人と比べて有意に異なり、精神の安定や免疫機能に関わる善玉菌が多く含まれていました。これらの菌は心血管疾患のリスクを下げ、健康全般を改善します。

現代の研究でも、ネガティブな感情やストレスは腸の蠕動運動を乱し、ストレスホルモンや炎症反応、自律神経を通じて腸内環境に悪影響を及ぼすと考えられています。その一方で、健康的な食事やプロバイオティクスの摂取で腸内を整えることで、精神を安定させることができます。
 

腸の健康を促進する食べ物

心身の健康を目指す方に対して、陳俊如氏は以下の食品を勧めています。

1. 玄米ご飯

食物繊維が豊富な全粒穀物、特に玄米を取り入れることをお勧めします。便秘気味の方には、一日二食を玄米ご飯にし、残りの一食で他の主食を摂ると良いそうです。

玄米に含まれる食物繊維は腸内善玉菌の栄養源であり、小動物実験では、玄米を摂取した後に善玉菌の分泌する異丁酸が増加し、代謝改善や炎症の抑制につながることが確認されています。

2. りんご

昔から「1日1個のリンゴで医者いらず」といわれているように、腸にやさしい定番の果物として、りんごも勧められています。アメリカの調査によると、2〜18歳の子どもたちが、りんごをジュースやジャムなどどんな形で食べても健康効果がありました。りんごをよく食べる子どもは、そうでない子どもより肥満が少ない傾向がありましたが、特にりんごを丸ごと食べるのが最も効果的とされています。

りんごに含まれるペクチン(可溶性食物繊維)はプレバイオティクス(善玉菌のエサ)であり、抗酸化成分のケルセチンは炎症を抑え、有害菌の増殖を防ぎます。

3. 漢方食療

茯苓(ぶくりょう)や白朮(びゃくじゅつ)といった漢方薬は脾胃を助ける効果があり、食欲不振にはさんざしを加えて食療法として取り入れることができます。

研究では、茯苓に含まれる多糖類は腸内で善玉菌に利用されやすく、乳酸菌やビフィズス菌の比率を高め、悪玉菌を減らします。これにより糖尿病や肥満といった代謝疾患の改善が期待できます。さらに、山楂や白朮を含む漢方カプセルが消化不良の症状を改善するという研究もあります。

4. 良質な油脂

一部の高齢者は「少油」を心がけて茹で野菜にも油を使わないことがありますが、油分が不足すると腸の動きが鈍くなります。高齢者には適量の油脂摂取が腸に潤いを与えるために必要です。推奨される油は、玄米油、苦茶油(カメリアオイル)、オリーブオイルです。

玄米油は米ぬかから作られ、植物ステロールが豊富で、大腸がんのリスクを軽減する可能性があることが研究で示されています。

オリーブオイルは腸の炎症を抑え、腸内環境を整える効果があり、数多くの健康効果があることが、数多くの研究で実証されています。

苦茶油は椿の種から抽出され、動物実験では脂質の蓄積を減らし、腸内細菌のバランスを整える効果が示されました

5. プロバイオティクス(善玉菌)

腸の善玉菌をサポートする食事に加えて、直接プロバイオティクスを補うことも効果的です。陳俊如氏によると、代表的な食品にはヨーグルト、乳酸菌飲料(ヤクルトなど)、粉末のサプリメントがあります。アトピー性皮膚炎の子どもには、ヨーグルトを中心とした食療法で腸内環境を改善し、肌の状態にも良い影響をもたらす可能性があります。
 

糖分と超加工食品は控えめに

善玉菌を育てる食事やプロバイオティクスの摂取に加えて、日頃から糖分を控え、超加工食品や精製された食品をできるだけ減らすことも重要です。

最近の研究では、超加工食品に含まれる人工甘味料、乳化剤、防腐剤が腸の透過性を高め、炎症を引き起こし、腸内フローラ(菌のバランス)を乱すことが確認されています。

また、2022年に学術誌『Cell』に発表された動物実験では、食事中の糖分が腸内細菌の構成を変え、代謝疾患のリスクを高めることが示されました。
 

善玉菌を育てるには規則正しい生活も大切

さらに、規則正しい生活習慣も腸内細菌にとって良好な環境を提供します。研究によると、体内時計の乱れ(概日リズムの崩壊)は腸内微生物に悪影響を与え、代謝機能の異常や炎症、さらにはがんのリスクの増加にもつながるとされています。
 
 (翻訳編集 華山律)

吳歡心