陰陽と五行は変化していく
秋分になると、昼と夜の長さが同じになり、陰と陽のバランスも整います。一見すると春分と同じように見えますが、大きな違いがあります。春分を過ぎると陽の気が強まり、だんだんと暑くなっていきますが、秋分を過ぎると逆に陰の気が増え、夜が長くなり、気温もぐっと下がっていきます。
人の体にとって秋分は、ただ涼しくなるだけの節目ではありません。天地の五行のエネルギーが切り替わり、組み替わる時期でもあります。人の体も五行でできた小さな宇宙とされており、天地の気の流れとつながっています。そのため天地の五行の変化を知れば、体の臓器にどんな影響があるかが分かり、体の気の流れを整えて病気を防ぐことができるのです。
秋分後は五行が第五段階へ
今年の秋分から、中医学の『内経』にある「五運六気」理論でいう「五之気」という段階に入ります。これは1年を6つに分けたうちの第5段階で、秋分(9月23日)から立冬の前日(11月21日)までの2か月間にあたります。1年は大寒から始まり、2か月ごとに一区切り、計6つの段階に分けられ、それぞれ五行のエネルギーが交代で主導していきます。
この第5段階では、地球そのものの五行エネルギーが「金」に変わります。金の性質は「涼しく乾く」ことで、朝晩の乾燥や冷えが強まります。人体では肺と大腸が金に属するため、この時期は呼吸器が影響を受け、乾いた咳が出たり、皮膚や口・鼻が乾燥しやすくなります。大腸の水分が不足し、便秘になりやすいのも特徴です。

また、地球の外側を取り巻く気の仕組みも五行で動いており、この時期は「土」が主導します。土の特徴は「湿」であり、その湿気が地球に入り脾胃に作用します。脾は土に属するため、湿気が強いと消化機能が弱まり、血や気を作る働きが滞り、手足がだるく力が出ないといった症状が出ます。
さらに、この外側の気には1年間全体を統括する「司天之気」があり、毎年異なります。今年は「風木」が全体を支配しています。つまり一年を通じて風が多く、風が動くと乾燥や熱を体に運び込みやすくなります。風が動けば火も強まるので「風が火を助ける」と言われます。
加えて、下半期を担当する「在泉之気」があり、今年は「相火」が主導です。木と火は互いに助け合うため、今年の秋は「風火の秋」となります。つまり秋だからといって単純に涼しくなるのではなく、昼間は風と火の影響でまだ暑さを感じ、昼夜の温度差が大きくなります。そのため体が環境に適応しにくく、より注意した養生が必要になります。
つまり、今年の秋分からの気候を一言で表すと、「外は乾燥し、中は湿り、寒さと暑さが入り混じり、風と火が勢いを増す」という、とても複雑な状態になるということです。
気の変化が体に与える具体的な影響
肺は乾燥に弱い臓器です。乾燥が強まると、鼻や喉が乾き、咳が出やすくなります。ただし、この時期は湿気も入り混じっているため、痰がからみやすく、喉に痰が残ってすっきりしないことがよくあります。そこに風と火が加わると、喉の痛みや黄色い痰を伴う咳に変わることもあります。
乾燥は便秘を招きますが、一方で湿気が重なると排便がスムーズでなく、べたついた感じが残ることもあります。「時には便が固く、時には下痢気味になる」というのは、まさに乾燥と湿気が入り混じった状態です。
湿気の影響で脾と胃の働きも弱まります。そのため食欲が落ちたり、食べすぎるとお腹が張ったり、食後に眠くなりやすくなります。冷たい飲み物を取りすぎると、湿気が体にこもってさらに悪化します。
風と火が加わると、気持ちが乱れてイライラし、不眠や偏頭痛が出やすくなります。体の弱い人は血圧が安定せず、動悸がすることもあります。
朝晩は冷えるのに昼は暑いので、服の調整がうまくいかないと風邪をひきやすくなります。特に今年は風の気が強いため、風に当たると頭痛や喉の痛み、発熱などしやすいのです。
どう養生すればいいか?
生活習慣のコツ
秋は「収穫・収める」季節です。夜は早く寝て、朝は少し早く起き、新鮮な空気を深く吸うのが良いとされます。朝の運動は、ゆっくりしたストレッチや深呼吸が最適です。夜は冷え込むので、薄着で寝るのは避け、首や背中を冷やさないようにしましょう。
食養生のポイント
この時期の食事は「熱を冷まし、肺を潤す、脾を強めて湿気を取り、寒さと風を防ぐ」ことが大事です。
1. 果物
- 梨:白色で金に属し、熱を冷まし肺を潤す。乾いた咳や喉の渇きに良い。
リンゴ:甘酸っぱく、気を補い、潤しながら脾や肝を整え、消化を助ける。
- 柿:熱を冷まし肺を潤し咳を止める。ただし体を冷やすので、胃腸が弱く下痢しやすい人は控えめに。
2. 野菜
- レンコン:熱を冷まし潤し、脾を助けて体の水分を生み、血の巡りを良くする。
- 大根:熱を冷まし肺を潤し、脾を助け、気の流れを整えて痰を減らす。咳や痰がからむ人、消化不良や食べ過ぎの人におすすめ。
- 山芋:脾・肺・腎を補い、体の土台を強め、湿気や乾燥を和らげる。
3. 穀物・豆類
小豆やハトムギは湿気を取る働きがあり、米と一緒におかゆにすれば脾胃を養いながら湿気を取り除ける。
4. 肉類・魚介
- 鴨肉:体を潤し肺を養う。脂っこくなく食べやすい。
- スズキ:脾を強めて気を補い、体の弱い人に適する。ただし魚は熱をこもらせやすいので、白菜や豆腐と合わせれば、熱を冷まし肺を潤し便通を良くし、脾の負担も減らせる。
- 牛肉:脾胃を温めて補う。大根や山薬(山芋)と一緒に煮れば、消化しやすく、脾と肺を養い、気の流れも良くなる。
日常の防護のポイント
「風は百病の原因」と言われます。秋分を過ぎたら外出時に上着を持ち歩き、特に首や背中を冷やさないようにしましょう。室内も乾燥しすぎないよう、加湿を心がけると良いです。

心の養生
秋は「金」の気が強くなり、陽気が収まっていくため、気持ちが落ち込みやすくなります。古人はこれを「悲秋」と呼びました。この時期は気持ちを穏やかに保つことが大切です。月を眺めたり紅葉を楽しんだり、自然に触れ心を開放すると、肺の気も伸びやかになります。

まとめ
秋分後の天地の気は、単に「涼しく乾燥する」のではなく、「乾燥に湿気が混ざり、風が火を助け、寒さと暑さが交じり合う」という複雑な状態になります。この複雑なエネルギーが体の臓器や経絡と関わり、体の五行のバランスを乱し、さまざまな不調や病気を引き起こすのです。
だからこそ、この時期の養生の基本は「天地の気の変化に合わせて暮らす」こと。これが第5段階の「五之気」に応じた養生であり、根本的に健康を守る方法なのです。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。