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加齢に伴う認知機能低下を防ぐ最適な時期とその方法

脳のニューロンは活気ある都市のようで、各ビルは安定した電力供給に依存して機能しています。短時間の停電なら、システムは復旧し、大きな害はありません。

しかし、数か月にわたる停電ではどうでしょうか。緊急発電機が必須サービスを維持しますが、最終的には故障します。水道システムが凍結して破裂し、ビルは劣化し、インフラは崩壊し始めます。電力が復旧しても、都市は廃墟となり、ダメージは修復不能です。

3月に発表された脳老化パターンと介入研究の筆頭著者、リリアンヌ・ムヒカ=パロディ氏は、この比喩を示し、「問題が小さいうちに治す方が簡単です」と述べました。

研究では、老化は特定の進行パターンに従い、最初の段階が中年期に現れ、それがインスリン抵抗性の増加と一致することが示されました。

電力復旧が遅すぎると都市が永続的なダメージを受けるように、脳も介入が効果を失う時点に達します。そのため、早期の行動が重要です。
 

老化する脳

ストーニーブルック大学の計算神経診断研究所所長、ムヒカ=パロディ氏によると、脳は明確な衰退段階をたどり、40代半ばまで安定し、その後変性変化が始まり、60代半ばで急速に進行します。

脳老化の主な要因はブドウ糖代謝の低下です。脳は炭水化物をエネルギーとして利用しにくくなり、機能が損なわれます。こうした代謝変化は症状が現れる数十年前に始まり、介入が効かない後期まで気づかれないことが多いのです。

しかし、機能的磁気共鳴画像法や脳波計といった脳活動を研究するツールは、加齢に伴う早期の脳変化を検出でき、治療ではなく予防の機会を提供します。

ムヒカ=パロディ氏によれば、疾患メカニズムの理解は効果的治療の第一歩です。例えばアルツハイマー病は、脳細胞間に粘着性プラークを形成するベータアミロイドや、脳細胞内にねじれたもつれを形成するタウタンパク質の蓄積が原因とされてきました。これらを除去する薬の開発は進められてきましたが、ほとんどが失敗に終わっています。

その理由のひとつは、アルツハイマー病が診断される段階ですでに不可逆的なニューロン損傷が生じていることです。タンパク質の蓄積は脳のインスリン抵抗性の結果であり、ベータアミロイドやタウタンパク質だけを標的にしても根本原因に対応できないのです。

他の多くの細胞と異なり、成人のニューロンは再生能力が非常に限られています。研究によれば、認知機能低下がニューロンの実質的な「飢餓」による場合、ニューロンが無力化または死滅するまで待つのは効果的ではないとムヒカ=パロディ氏は述べています。

生理システムは、エネルギー供給と需要のバランスを維持する「ホメオスタシス」を保つよう設計されています。このバランスが崩れるとストレスが生じ、時間の経過とともにさらなる調節異常を引き起こし、問題を悪化させると彼女は説明しました。

障害が蓄積し、代謝ストレスやブドウ糖調節異常といった二次的な影響が定着すると、元の問題を修正するだけでは不十分になります。
 

インスリン抵抗性:主要な要因

脳ネットワークの不安定性における最初の大きな変化は、長期的な血糖レベルの指標であるHbA1cで測定されるインスリン抵抗性の増加と同時に起こります。

ニューロンはブドウ糖とケトンという2つの主要なエネルギー源に依存しています。一部のニューロンはブドウ糖を利用するためにインスリンを必要としますが、インスリン抵抗性になるとこの燃料を利用しにくくなります。これが「インスリン抵抗性」と呼ばれる状態だと、ムヒカ=パロディ氏は説明しています。

細胞が主要なエネルギー源であるブドウ糖を効果的に利用できなくなると、代謝ストレスが増加し、神経細胞間のメッセージ伝達が遅くなり、認知機能低下につながります。

アルツハイマー病などの状態では、ブドウ糖の取り込みと利用が損なわれます。そのためアルツハイマー病は、時に「3型糖尿病」と呼ばれると、シアトル在住の登録栄養士アンジェル・プラネルス氏はエポックタイムズに語りました。

ニューロンがインスリン抵抗性になると、ブドウ糖を利用できなくなりますが、インスリンを必要としない代替エネルギー源であるケトンを利用することは可能だと、ムヒカ=パロディ氏は述べました。

軽度認知障害やアルツハイマー病の高齢者でも、脳細胞がケトンを取り込めることは確認されていますが、この段階ではすでに不可逆的な損傷が進んでおり、その効果は制限される可能性があります。

そのため、脳を積極的に保護するには「介入の窓」を特定することが重要です。
 

介入の窓

「加齢に伴う認知機能低下は、老化の必然的な結果ではなく、脳のインスリン抵抗性をターゲットにした早期介入で防げるプロセスです」とムヒカ=パロディ氏は述べています。

脳の老化は予測可能な軌跡をたどります。徐々に直線的に衰退するのではなく、「S字型」のカーブで変化し、介入が最も効果的な特定の時期があることを示唆しています。

40代後半から、脳ネットワークは不安定さと協調性の喪失を特徴とする大きな変化を経験します。これらの変化は2型糖尿病の人に見られるものと似ており、インスリン抵抗性が早期認知機能低下の主要な要因であるという考えを裏付けます。

40歳から60歳までの期間は、介入において最も重要な「窓」とされます。この時期、脳ネットワークは最も不安定ですが、同時に適応力があり、介入に最適なタイミングなのです。
 

ケトジェニックダイエット

インスリン抵抗性を迅速に回避する代謝介入、たとえばケトン補給やケトジェニックダイエットは、効果的であることが証明されています。

ムヒカ=パロディ氏は、これらの介入が示す効果の速さに驚いたと述べています。彼女の研究では、ケトンドリンクを摂取してわずか30分後に脳ネットワークが安定しました。

ある研究では、参加者が一晩絶食した後にケトンまたはブドウ糖ドリンクを摂取し、機能的磁気共鳴画像法で脳活動の変化を測定しました。その結果、脳ネットワークの機能はエネルギー源によって変化し、ブドウ糖は安定性を下げ、ケトンは安定性を高めることがわかりました。この効果は、食事の変更とケトンサプリメントの両方で確認され、脳が資源の限られた状況でエネルギーを節約するためにネットワークを切り替えることを示しています。以前の研究でも、ケトジェニックダイエットを1週間続けるだけで同様の変化が確認されています。

ケトンは、低炭水化物・高脂肪ダイエットや断食によって体内で生成されるほか、サプリメントとして摂取することも可能です。しかし、脳の健康対策は40代を待つ必要はありません。低炭水化物・高繊維の食事や定期的な運動など、早期からのライフスタイル改善が、脳のインスリン抵抗性を予防または遅らせるとムヒカ=パロディ氏は述べています。

40代に入ったら、標準的なHbA1c測定だけではなく、脳のインスリン抵抗性を評価するスクリーニングがリスクの早期発見に役立ちます。これにより、ケトジェニックダイエットやサプリメントを導入し、ブドウ糖利用をサポートできる可能性があります。

「誰もが厳格なケトジェニックダイエットを行う必要はありません」とプラネルス氏は述べています。「しかし、加工炭水化物を減らし、インスリン感受性を改善することは、一般的に脳の健康に有益です」

ケトン補給やケトジェニックダイエットには潜在的な利点がある一方で、制限も存在します。ケトジェニックダイエットは制限が厳しいため継続が難しいことがあり、ケトンサプリメントは消化器系の不調、頭痛、電解質の不均衡といった副作用を引き起こす可能性があります。

また、ケトジェニックダイエットやサプリメントに加え、認知レジリエンス(脳がストレスに適応し機能を維持する能力)は、精神的に刺激的なタスクや新しいスキルの学習、社会的なつながりの維持といった活動によって高められるとプラネルス氏は述べました。慢性ストレスと高コルチゾールレベルは脳の老化を加速させるため、瞑想などのマインドフルネス実践が有益だと指摘しています。

「機会の窓は狭いかもしれませんが、その存在を知ることで行動する力が生まれます」と彼は語りました。

(翻訳編集 日比野真吾)

ゼナ・ルー・ルーは、健康ジャーナリストで、健康調査ジャーナリズムの修士号を持ち、機能栄養に特化した認定健康およびウェルネスコーチです。スポーツ栄養学、マインドフルイーティング、内的家族システム、および応用ポリヴェーガル理論のトレーニングを受けています。彼女はプライベートプラクティスで働き、英国に拠点を置く健康学校の栄養教育者としても活動しています。