高齢化社会において、認知症は健康を脅かす重大な問題となっています。注目すべき点として、西洋医学の薬物治療は一部の症状を抑えることはできるものの、反応の鈍化、食欲不振、睡眠の悪化などの副作用を伴うことも少なくありません。
台湾・京禾中医クリニックの院長である陳俊如氏は、認知症の初期段階から鍼灸や中薬による体質調整を併用することで、記憶機能の改善が期待できるだけでなく、症状の進行を遅らせ、患者の生活の質を高める可能性があると指摘しています。

認知症のリスクが高い人
陳氏によると、認知症の最大のリスク要因は加齢であり、これに加えて家族歴がある人、退職後に活動量が減った人、睡眠の質が悪い人も高リスク群に含まれます。
高ストレスの仕事に就いている人は、強いプレッシャーや国際電話への常時対応などにより睡眠の質が低下しがちです。さらに、睡眠薬を服用する習慣がある場合、将来的に脳の病変を引き起こすリスクが高まりやすいともされています。
睡眠は身体および脳の健康に大きな影響を与えます。毎日の睡眠中には、脳と脊髄を循環する液体によって、脳内に蓄積した老廃物が除去されます。これには、認知症の原因となり得る有毒物質も含まれます。しかし、睡眠薬や抗不安薬は入眠を助ける一方で、身体本来の睡眠時デトックス機能を直接促進・活性化するものではありません。これらの薬を長期使用すると、耐性や依存性が生じる可能性があり、日中の眠気や記憶力低下などの副作用を引き起こすほか、認知症リスクを高める恐れもあると指摘されています。
西洋医学による治療は副作用が現れやすい
認知症は脳の神経調節機能の異常による疾患ですが、初期段階では、その他の生理機能の多くは比較的保たれていることが一般的です。しかし、一部の患者では西洋薬による治療を受けた後、次のような副作用が現れやすくなることがあります。
- 反応の鈍化:認知症患者は、言語表現が不明瞭であったり、言葉を理解しにくかったりすることはあっても、ある程度は身振りや表情で感情を表すことができます。しかし西洋薬を服用すると、言語や身体による表現能力がさらに低下し、無表情でぼんやりとした状態になることがあります。
- 睡眠の質の低下:薬の影響で日中に強い眠気が出やすくなり、夜間の睡眠時間帯にはかえって睡眠の質が悪くなって、十分な休息が得られなくなることがあります。
- 食欲不振:薬が脳の神経に影響を及ぼし、嚥下中枢の働きが乱れることで、食事がしづらくなったり、むせやすくなったりする場合があります。その結果、誤嚥性肺炎を引き起こすこともあります。
- 血行不良:薬によって血液循環が悪化し、手足の冷えや全身のこわばりが起こりやすくなることがあります。寒い時期には、しもやけができやすくなることもあります。
陳氏は次のような症例を振り返っています。かつて活躍していた高級管理職の女性が、退職後に軽い風邪をきっかけとして、突然認知症の症状を発症しました。確定診断を受けた後、西洋薬による治療を受けましたが、病状は改善するどころか、むしろ悪化していきました。家族が中医を受診させた時には、すでに車椅子が必要な状態で、意思表示は視線のみで行う状況でした。活動量の低下により筋肉量が減少し、食欲も低下して次第に痩せ衰え、最終的には食事摂取が困難となり、病院からは胃ろうなどによる経管栄養を勧められるまでに至ったということです。
認知症の早期には鍼灸治療が最適
中医学の考え方では、認知症は「気滞血瘀(きたいけつお)」と深く関係しているとされ、治療では腎を補い血を養い、血行を促して瘀血を取り除くことを重視します。中医学では「腎は脳髄を主る」と考えられており、腎を養うことは脳を養うことにつながるとされています。陳氏は、中薬によって腎陽を温め補うことで、脳の機能向上が期待できると述べています。
認知症の初期段階において、鍼灸と薬物療法を併用することで、脳の退行変化を遅らせられる可能性があります。頭皮鍼により、百会、四神聡、神門などの頭部のツボを刺激することで、脳の神経回路を活性化し、記憶力を高め、認知症の改善を助けるとされています。


陳氏は、認知症に伴って現れる他の身体的症状について、例えば手足のこわばりには合谷や曲池への鍼灸が有効とされ、足の動きが悪い場合には陽陵泉や足三里への鍼灸が適していると述べています。




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