約2万8千人を対象に25年間追跡した研究で、チーズと脳の健康に関するこれまでの見方は異なる結果を示した。高脂肪のチーズやクリームを多く摂取していた人ほど、長期的な認知症リスクはやや低かった。一方、低脂肪乳製品やその他の多くの乳製品では、認知症リスクとの明確な関連は認められなかった。
研究の共同著者であるエミリー・ソネステット氏は、エポックタイムズの取材に対し、「低脂肪の乳製品が常に脳の健康にとって最良の選択であるという考え方に一石を投じる結果だ」と語った。
乳製品の是非は一概に語れない
神経学専門誌「Neurology」に掲載されたこの研究によると、高脂肪チーズを1日50グラム以上摂取していた人は、15グラム未満の人に比べ、認知症を発症するリスクがわずかに低かった。
また、高脂肪クリームを1日20グラム以上摂取していた人は、全く摂取していなかった人と比べ、認知症リスクが16%低かった。
特に関連が強くみられたのは、脳への血流障害によって起こる血管性認知症だった。高脂肪チーズを多く摂取していた人では、このタイプの認知症の発症リスクが29%低かった。飽和脂肪酸が心血管疾患と関連することが広く知られている中で、注目される結果ともいえる。
高脂肪クリームについても、全体的な認知症リスクが16%低い傾向を確認した。
研究対象となった2万7670人のうち、約10%が25年間の追跡期間中に認知症を発症した。参加者は研究開始時に、食事内容について、食事質問票や聞き取り調査、7日間の食事記録を通じて報告している。
本研究では、脂肪分20%以上のチーズを高脂肪チーズと定義しており、ゴーダチーズ、ブリーチーズ、チェダーチーズなどを含む。脂肪分30%以上のクリームは高脂肪クリームとされ、ホイップクリームやクロテッドクリーム、ダブルクリームなどが含まれる。
研究チームは、この研究が観察研究であり、食品の摂取と認知症との因果関係を直接示すものではないと指摘している。
ソネステット氏は、「今回の結果は、高脂肪の乳製品を適度に摂取しても、脳の健康に悪影響を及ぼす可能性は低く、認知症リスクが比較的低い食生活の一部となり得ることを示している」と述べた。
なぜチーズは他の飽和脂肪源と異なる影響を及ぼすのか
一般的な栄養指導では、飽和脂肪酸を多く含むことから高脂肪乳製品は控えるべきだとしてきた。しかし今回の研究は、すべての脂肪が同じように作用するわけではないことを示している。研究の共同著者であるエミリー・ソネステット氏は、「重要なのは、飽和脂肪がどの食品に由来するかだ」と述べている。
その一つの説明として挙げられるのが「フードマトリックス」という考え方である。食品は個々の栄養素の集合体ではなく、さまざまな成分や構造が組み合わさり、相互に作用することで、体内での消化や代謝のされ方が変わるという概念だ。
チーズでは、脂肪、たんぱく質、カルシウム、その他の生理活性成分が複雑な構造の中に結び付けられている。チーズに含まれる脂肪は消化の過程でゆっくりと放出されるため、食後の血中脂質の上昇も緩やかになる。ソネステット氏によると、硬いチーズほどこの過程がより遅くなる傾向があるという。
こうした緩やかな変化は血管系への負担が小さく、特に細い血管が密集する脳にとっては重要とされる。脳の血管を守ることが、認知症リスクの低下につながる可能性がある。
ランダム化比較試験では、同じ量の脂肪と栄養素を摂取した場合でも、バターのように吸収が早い形で摂取した場合より、チーズとして摂取した方がコレステロール値が低くなることが確認されている。別の臨床試験でも、飽和脂肪の量が同じであっても、バターよりチーズを食べた後の方がコレステロール値が低かった。これは、チーズの脂肪がよりゆっくり消化されるためと考えられている。
低脂肪は「高脂肪から脂肪を引いたもの」ではない
チーズから脂肪を取り除くことは、単にカロリーを減らすだけではない。食品としての性質そのものが変化する。低脂肪チーズは食感が異なり、製造工程も変わるため、有益な成分の利用可能性が低下するとみられる
例えば、ある研究では、無脂肪や低脂肪の乳製品は、全脂肪製品と比べて、ビタミンKなどの脂溶性ビタミンの含有量が大幅に少ないことを示した。ビタミンAやビタミンEといった抗酸化作用を持つ成分も脂溶性であり、乳製品では脂肪部分に多く含まれる傾向がある。
脂溶性ビタミンを小腸で適切に吸収するためには、食事中の脂肪が不可欠だとしている。
健康への影響を評価する上で、加工の度合いも重要性を増している。加工度の低い、あるいは発酵した乳製品は、心血管代謝に対して中立的、もしくは好ましい影響と関連付けられることが多い。一方、精製された原料を用い、食品構造が損なわれた加工食品は、肥満、2型糖尿病、心血管疾患、全死亡リスクの増加と一貫して関連している。
本研究が行われたスウェーデンで一般的に食べられているチーズは、多くが発酵食品で、加熱せずに食べられる点も特徴だ。ソネステット氏は「発酵によって生理活性ペプチドが生成される可能性があり、一部のチーズにはビタミンK2のような脂溶性ビタミンも含まれている」と説明する。
一方、アメリカではチーズは肉料理と一緒に溶かしたり加熱したりして食べられることが多く、これにより構造が変化し、脂肪がたんぱく質から分離しやすくなる。
重要なのは単一の食品ではなく食事全体
本研究では、チーズを牛乳や発酵乳、加工肉、高脂肪の赤身肉に置き換えた場合、認知症リスクが高まる傾向を確認した。この結果は、加工度の高い食品よりもチーズを選ぶ方が、比較的健康に良いとする他の研究とも共通している。
ただし、これが高脂肪チーズが常に心臓や脳に良い食品であることを意味するわけではない。チーズは不健康な食品と比べれば選択肢としては良い場合があるものの、脳の健康にとって最適な食品だと断定はできない。
ソネステット氏は、「バランスの取れた食事の一部として日常的に食べるチーズと、加工肉やファストフードと一緒に食べるチーズとでは、健康への意味合いが大きく異なる」と述べた。
本研究について論説を執筆した台北医学大学の准教授で、栄養疫学者でもある臨床医の葉天忻氏は、心臓の健康を考えた食生活の重要性を指摘する。具体的には、飽和脂肪を控え、トランス脂肪酸を避ける一方で、ナッツ類や種子類、脂の多い魚などから必須脂肪酸を摂取することが望ましいとしている。
葉医師はエポックタイムズに対し、「乳製品の摂取は比較的控えめにし、植物由来のたんぱく質や脂肪を重視することが、健康全般にとって有効な戦略だ」と語った。
今回の研究は、チーズがバランスの取れた食生活の一部として、一定の保護的役割を果たすことを示唆している。ただしソネステット氏は、認知症リスクは単一の食品ではなく、数十年にわたる食事と生活習慣の積み重ねによって決まるものだと強調している。
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