17日に閉幕した主要8カ国(G8)による首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)では地政学的リスクが主要議題となり、日本が提案した北朝鮮のミサイル発射問題は、国連安全保障理事会が全会一致で採決した非難決議支持が明記された。一方、中東情勢については、米国とフランスの意見の違いが表面化するなど、和平実現への打開策を提示するには至らなかった。
G8サミットでは、国連安全保障理事会が15日、北朝鮮のミサイル発射を非難する決議を全会一致で採択したことを踏まえ「国連安全保障理事会決議に対する支持」(議長総括)を表明した。議長総括ではさらに、北朝鮮に対し1)ミサイル発射のモラトリアムに関する既存の約束の再確認、2)すべての核兵器および既存の核計画の放棄、3)6カ国協議への速やかな復帰−−を要求。「北朝鮮に対し、拉致問題の早急な解決を含め、国際社会の他の安全保障および人道上の懸念に対応するよう求める」と拉致問題にも言及されたが、日本が当初求めていた「制裁」は実現せず、「全会一致」を果実とした。
会議後に記者会見に臨んだ小泉首相は「安保理決議の全会一致は極めて重要」と強調するとともに「(北朝鮮問題について)G8でも協議し、核、ミサイル、拉致の問題の解決のために国際的な連携が必要との認識で一致した。明確なメッセージを北朝鮮側に発出することができた」と述べ、最後となるサミットでの成果をアピールした。同時に「(安保理やG8のメッセージを)重く受けとめるべきだ」として、北朝鮮に対して6カ国協議への早期復帰を訴えた。
しかし、北朝鮮は16日、同国のミサイル発射に対して国連安全保障理事会が採択した決議には拘束されないとの方針を打ち出している。また同決議採択が「極めて危険な状況」をつくり出したとし、北朝鮮はあらゆる方法で「戦争抑止力」を強化するとしている。さらに「米国の極めて敵対的な行動によって今や状況は過去最悪の段階に達しており、北朝鮮はあらゆる方法で自衛的戦争抑止力を強化していく」とするなど、北朝鮮が国連安保理決議を受け入れるかどうかはなお不透明だ。
G8ではイスラエルのレバノン侵攻などで緊張が高まっている中東情勢についても議論されたが、議長総括では「中東の現状を深く懸念し、地域に平和を回復するための決意で一致」、「国連が中心的な役割を果たし、政治的および外交的解決方法が優先されなければならない」などの表現にとどまった。
中東情勢を巡っては、ブッシュ米大統領が「イスラエルには自衛の権利がある」などとイスラエル支持を繰り返す一方、シラク仏大統領は「全ての当事者の節度ある態度を求める」、「(イスラエルのレバノン攻撃について)常軌を逸している」と主要国間で意見が対立した。
小泉首相はG8出席に先立ちイスラエルやパレスチナ、ヨルダンを歴訪、各国首脳と会談し、和平実現の必要性を強調した。首相は、ヨルダンのアブドラ国王と会談した際、パレスチナ・ヨルダン渓谷の農業、産業開発をイスラエル、パレスチナとヨルダン、日本が協力して進める「平和と繁栄の回廊」構想を提案。アブドラ国王は「全面的に協力する」と表明。両首脳は、構想具体化へ4者の協議機関を早期に発足させることで合意した。
小泉首相は記者会見で「今の深刻な事態にひるむことなく、(同構想について)できるだけ早く協議に入りたい」とし、各国首脳から賛同を得たと胸を張った。しかし首相が訪問中、事態はかえって悪化しており、自制を求めたイスラエルから理解を得られたとはいいにくい結果となった。
イランに対しては、国連安保理常任理事国(米英仏中ロ)とドイツの6カ国が提示した包括的見返り案支持で一致、イランの前向きな取り組みを促した。ロシアのプーチン大統領は会議後の記者会見で「イランに対する制裁を協議することは時期尚早。その段階には至っていない」とイランの対応を見守る姿勢を示した。
(ロイター7月17日=サンクトペテルブルク)
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