【ノンフィクション】ナンシーのカルテ(2)

【大紀元日本8月16日】「手術を受けている時、私は自分が2人いるような感覚でした。一人は手術台に載せられていて、もう一人のは宙に浮いて、手術の工程を見ているのです。先生が私の乳房から組織を切り取ったり、切り口を縫い合わせていました。先生の熟練した手つきと、その進み具合をよく覚えています。また、看護士の働きに不満を感じたのも覚えています」。

「私は、先生たちが、まるで私がそこに存在していないかのように私のことを話しているのに驚きました。でもすぐに私は、自分の身体がまだ手術台に載っていることに気が付きました。先生は、胸部内の三層の筋肉を縫い合わせたときに、一層一層、違う方法で縫いましたよね。さらに、炎症を防いで水が溜まらないようにするためのチューブを胸に埋め込む時、大小様々な大きさのものを試してみて、最後に一番合うものを埋め込みましたよね。先生が摘出した乳房は、計18ポンド(約453g)だったわ、そうでしょう?」

話をここまで聞いた医師は、真っ青になって椅子から立ち上がり、水を取ってくると言って部屋を出て行った。しばらく経ってからようやく戻って来た医師はナンシーに、「おお、よ、幸いにも、手術を見ていたのはあなたでした。もし見ていたのが神様だったら、、私はきっと手が震えて、切り口を縫い合わせることもできなかったでしょう...」と話した。

そして、しばらく考え込んだ後、ナンシーに、「もし神が人間を創造したのであれば、私は毎日メスを使って何人もの人から身体の一部を切り取っている。私は、自分が良いことをしていると、そう思っていた。しかし、来世では、それに償うために、一体自分は何に生まれ変わらねばならないのだろうか?」と述べた。

ナンシーは北欧出身で、背が高く頑丈で、歩くのがとても速い。男性的な雰囲気を持ち合わせ、優越感と自信に満ちている。まるで生活の中のどんな困難も、彼女にとっては簡単に解決できるようだ。しかし、ナンシーは、唯一人間がコントロールできない問題が自分の身にふりかかろうとは思いもしなかった。

の原因は、はっきりと説明できず、治療法もない。乳がんは彼女の命を奪うかも知れず、それに彼女は怯えていた。彼女は死をも覚悟したが、あまりにも多くのアクシデントが起こった。手術の途中で突然停電したり、地震で天井の照明が落ちて彼女の胸を命中するなど、普通では考えられないような事ばかりだった。最もショックだったのは、彼女が医師たちの会話で自信をなくした後、傷が一向に回復しないことだった。しかし、医師たちが話していたのは自分のことではなく、別の患者のことだったと知ると、その後すぐ自分の傷が癒えるのを経験した。

これらの経験から、ナンシーは身体と心は密接に繋がっていることを自覚した。その後、ナンシーは私を再び訪れて、「業」や精神に関する問題を考え始めたと言い、「先生、私は自分を見つめて、反省することにしました」と伝えた。

ナンシーは、「私は他人に対して、いつも厳しく要求していました。いつも高い基準で他人を評価していたのです。誰かが大学へ行けなければ、それはその人が怠け者だからと決め付けていました」と語った。

「私は、家を離れて落ち着く場所もない多くの子供たちを助けましたが、それと同時に彼らの母親は、母親になる資格もないと決め付けて、彼女たちを刑務所に送っていました。弟とは、一度ケンカをして以来、十年以上口をきいていません。医師や看護士たちは、私と会うと、とても緊張しています。緊張のあまり、私に注射をするとき血管を見つけられなくなった看護士もいたくらいです...」(つづく)

(「新紀元週刊」より転載)