韓国GM工場閉鎖で文政権失速の危機、救済なら国民反発

Cynthia Kim and Ju-min Park

[ソウル 22日 ロイター] – 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が窮地に立たされている。米ゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>が韓国事業を縮小した場合、給料の良い仕事が大量に失われ、文氏は政治的資本を失いかねない。

一方で、救済のため税金を投入すれば、国民の反感に直面することになる。

GMは先週、ソウルの南西、群山市の工場を閉鎖すると発表。韓国内に残る3工場の今後についても数週間以内に決定する方向だ。同社は韓国事業を再編し継続するため、韓国政府の支援を求めている。

政府やGM韓国の株式17%を保有する韓国産業銀行には十分な財源があるものの、同社への資金援助は国民の反対に直面する可能性があり、政治的に難しいだろうと政府当局者は話す。

「税金を使って民間企業を支援することに対して、国民から反発が起きる可能性から逃れることはできない」と、ある政府当局者は匿名で語った。

加えて、韓国では若者が正規雇用の職を見つけることがますます困難となる中、好戦的で有名な自動車労働者組合に対する世論の支持は低下している。

22日発表された調査では、30%がGMに対するいかなる公的支援にも反対だと答え、56%は同社が実現可能な再建計画を提示した場合のみ支援に賛成だと回答している。世論調査会社リアルメーターが実施した同調査によれば、雇用を守るために政府は無条件で公的資金を注入すべきと答えたのはわずか6%しかいない。

文氏は昨年、雇用創出を公約に掲げて大統領選に勝利した。その後まもなくして、公的部門において数十万人の雇用を生むために約11兆ウォン(約1兆円)規模の補正予算案を編成した。

しかし汚職スキャンダルが一部の韓国大手企業を揺るがす中、文大統領は政府と企業との親密すぎる関係にメスを入れる改革も約束している。

これまでの民間部門への政府による介入も、必ずしも成功してきたとは言い難い。

政府は2015年以降、造船大手の大宇造船海洋<042660.KS>に7.1兆ウォン超の公的資金を注入。1企業に対する救済としては過去10年以上で最大となる同措置にもかかわらず、韓国の造船セクターは依然低迷し続けている。

<組合と失業>

大統領府は今週、GMが工場を閉鎖しようとしている群山市を、影響を受ける労働者が経済支援を受けられる「雇用危機地域」に指定することを明らかにした。

GMは韓国にいる全従業員約1万6000人に対し、依願退職プログラムの提供を始めた。

また、GMが韓国から完全撤退した場合、同社のサプライチェーンにもその衝撃は波及し、国内に14万人いるサプライヤーや下請け業者もリスクにさらされる恐れがある。

「文在寅大統領がこの問題を適切に解決することができなければ、雪だるま式に悪化して、もっと大きな問題となって大統領自身に跳ね返ってくるだろう」。閉鎖が検討されているGMの富平(プピョン)工場で7年働くベテラン従業員のLee Young-suさんはこう話す。「文在寅政権は、雇用を創出するのと同じくらい、雇用を守るべきだ」

厳しい労働市場に苦しむ韓国人から「貴族」と揶揄(やゆ)されがちな大企業の労働組合のために雇用を救済することに、国民が同情的でないことも問題を複雑にしている。

多くの若者は、そのような労働組合について、年配の労働者が子どもの大学費用や車の購入費を賄えるよう寛大な条件を守るための団体と見ている。

若者の失業率は昨年、9.8%と過去最悪を記録。これは全国平均3.7%の約3倍に上る。

GM幹部側は、韓国の比較的高い賃金と頑固な労働組合が、韓国事業における問題の一因だとしている。

だがGM韓国の労組幹部は、欧州でシボレーブランドの販売終了後、韓国での生産を減らした会社側の判断を非難している。韓国はかつて、GMの国際戦略において主要な輸出拠点となっていた。

保守政党である自由韓国党のHam Jin-gyu氏は、GM韓国と組合の両方が譲歩しない限り、どのような公的資金にも反対だと言う。

「GM本社に不透明な経営の責任を取らせることなしに、また、強硬姿勢を貫く貴族的な組合から痛みを分かち合うという約束を取り付けることなしに、(政府は)税金をつぎ込むべきではない」と同氏は語った。

<長年の警告>

 

一部韓国人の間では、利益を海外移転する外資系企業への根深い不信感があり、GMのような米国企業への支援はとりわけ論争の的となる。

米韓関係は現在、トランプ米大統領が両国間の自由貿易協定の再交渉を主張し、難しい時期にある。

「トランプ氏がタカ派姿勢を強める中、韓国政府が税金を投入したら国民は快く思わないだろう」と、対外経済政策研究院(KIEP)のエコノミスト、Chung Chul氏は指摘する。

GMは債務株式化と韓国事業への新たな投資を提案している。一方、韓国政府側は、支援するにはまず同社とその「不透明な経営」への監査を実施する必要があるとしている。

「非常に多くの職が危機的状況にあり、GM問題にどう対処するかは政府の政策に関わるものだ」と、韓国産業銀行の当局者は言う。「それ故、政府と当行は、単に結論を急ぐわけにいかない。誰かが自分は病気だと言った場合、われわれはまず問題を見つけるためにその腹部を切開する必要がある」

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

 

 2月22日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(写真)が、GM韓国の工場閉鎖を巡り窮地に立たされている。江陵で17日撮影(2018年 ロイター/John Sibley)
関連記事
オーストラリア政府が2030年までに再生可能エネルギーを82%まで増やす目標を達成するため、過去最大規模の再生可能エネルギー入札が発表された。全国電力供給網(NEM)向けに6ギガワット(GW)の新規再生可能エネルギー・プロジェクトが展開され、各州で多くの再生可能エネルギープロジェクトが進む予定だ。 西オーストラリア州では、500メガワットの再生可能エネルギー貯蔵発電の入札が始まり、国家エネルギー市場で注目を集めている。
世界保健機関(WHO)は、人々の健康促進に取り組んでいると自称している。しかし、新型コロナの対応において、中国共産党の代弁者として振る舞い続けたなどの理由で、WHOの中立性が疑問視されている。
香港では「国家安全法」を導入したことで、国際金融センターとしての地位は急速に他の都市に取って代わられつつある。一方、1980年代に「アジアの金融センター」の名声を得た日本は、現在の状況を「アジアの金融センター」の地位を取り戻す好機と捉えている。
8日、エマニュエル駐日米国大使と山形前駐オーストラリア日本大使が、日米同盟の重要性を力説した。エマニュエル大使は、「新型コロナウイルス感染症」「ロシアのウクライナ侵攻」「中国の威圧的行動」という「3つのC」が世界を変えたと指摘。日米両国がこの2年間で70年来の政策を大きく転換したことに言及し、「日米同盟は新時代を迎えている」と強調した。
米国憲法は、まず第一に、神から与えられた権利と自由を守ることで知られている。最近「現在の危険委員会:中国」によ […]