シュライバー元米国防次官補、台湾訪問 識者「米による台湾へのコミットメント」と期待

米国防総省の元インド太平洋安全保障担当次官補ランドール・シュライバー(Randall Schriver)氏は、2月17~21日まで台湾を訪問した。退官後初めてとなる海外訪問だ。

シュライバー氏は19日、台湾のシンクタンク「国防安全研究院」で、米台関係やインド太平洋地域の安全保障強化について講演し、台湾は米国のインド太平洋戦略の要だと述べた。

台湾の中央社によると、同氏は台湾が日本などアジア諸国との多角的な関係を形成するために「米国が橋渡し役を担える」と述べたという。

産経新聞は、同氏は「日本は台湾の将来を安全保障に直結するとみている」と述べ、米国を中心とする日米台の安全保障対話に期待を示したと伝えた。

シュライバー氏は、トランプ政権で2018年1月~19年12月、台湾担当の国防次官補として両国の安全保障関係に取り組んできた。

プロジェクト2049研究所を通じて米台関係強化

2019年12月、国防総省を去ったシュライバー氏は、自身が2008年に立ち上げたアジア安全保障政策シンクタンク「プロジェクト2049研究所(Project 2049 Institute)」所長に再就任した。台湾の議員は、同所を通じて、台湾と米国の外交関係が活発になることを期待している。

王定宇立法委員(国会議員)は、かつて、米政府の台湾に関する議論は貧弱で、大半が中国本土視点で台湾を見ていたという。しかし、過去2年間で米台関係は大きく進展したと述べた。

両国に外交関係はないが、軍事と外交分野に進展があった。台湾への武器販売に加えて、2018年3月に施行された台湾旅行法、および精査中の「台湾同盟国際セーフガードおよび強化イニシアチブ2019年法(通称、台北法)」により、米国と台湾の公式訪問が許可された。

また、米国は台湾を「アジアのパートナー」と呼び、最近の国際的な宗教の自由に関するイベント、サイバー安全保障会議、新型コロナウイルスのワクチンの共同開発などの交流を行ってきた。台湾は、米国主導の環太平洋合同演習(RIMPAC)への参加を望んでおり、シュライバー氏との関係強化を考えている。

シュライバー氏の率いるプロジェクト2049研究所の今後の展開が注目される。同所エグゼクティブ・ディレクターのマーク・ストークス( Mark Stokes)氏は、70年代に米中関係の正常化を促進した「上海コミュニケ」同様に、米台関係を正常化する「米台共同コミュニケ」の推進を提言している。

台湾・淡江大学戦略研究所の黄介正副教授は、米政府系ボイス・オブ・アメリカの取材に応じた。黄氏によると、このコミュニケ実現には、米国が中国に対して、台湾を独立国家ではなく一つの自治地域として認識させ、公式交流の利便性のために台湾の政治的存在を認めさせる必要があるとした。また、台湾を民主主義のモデルとして、中国の政治改革を促していく。

黄氏は、このコミュニケの実現はまだ現実的ではないが、米中対立の溝が大きくなればなるほど、米国から見た台湾の戦略的価値は増大し、注目されるようになると見ている。

米台共同コミュニケに慎重な声

黄氏によれば、トランプ大統領が就任後、米政治界は親中派「パンダハガー(Panda Hugger、パンダを抱く人)」は少数派になり、対中強硬派のドラゴンスレイヤー(Dragon Slayer、竜殺し)が主流となった。この流れは台湾にとって好ましいが、米台合同コミュニケが「台湾関係法」の有効性を損ない、中国に台湾への武力行使の言質を与えることになれば、それは有益ではなく、実現不可能になるとの見方を示した。

「台湾関係法は、米国議会の法律であり、台湾とは関係がない。しかし、共同コミュニケは、双方が座って首脳と閣僚がそれぞれ署名する。これは外交的承認に等しい。署名後の台湾の危機に繋がるかどうか、評価しなければならない」と慎重な態度を示した。

台湾・政治大学国際関係研究センターの厳震生研究員は、シュライバー氏の訪台により、米の台湾政策または中国の封じ込め政策に関する情報を直接、提供している可能性があり、米国による台湾の安全保障に対するコミットメントを意味するとした。

(翻訳編集・佐渡道世)

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