≪医山夜話≫ (17)

ナンシーのカルテ②

「手術を受けている時、自分が2人いるような感覚でした。一人は手術台に載せられていて、もう一人の魂は宙に浮いて手術の過程を見ているのです。先生が私の乳房から組織を切り取ったり、切り口を縫い合わせたりしていました。先生の熟練した手つきと、その進み具合をよく覚えています。また、看護士の働きに不満を感じたのも覚えています」

 「私は、先生たちが、まるで私がそこに存在していないかのように私について話しているのに驚きました。でもすぐに私は、自分の身体がまだ手術台に載っていることに気がつきました。先生は、胸部内の三層の筋肉を縫い合わせたときに、一層一層、違う方法で縫いましたよね。さらに、炎症を防いで水が溜まらないようにするためのチューブを胸に埋め込む時、大小様々な大きさのものを試してみて、最後に一番合うものを埋め込みましたよね。先生が摘出した乳房は、1.8ポンドだったわ、そうでしょう?」

 話をここまで聞いた医師は、真っ青になって椅子から立ち上がり、水を取ってくると言って部屋を出て行きました。しばらく経ってから、ようやく戻って来た医師はナンシーに、「おお神よ、幸いにも、手術を見ていたのはあなたでした。もし見ていたのが神様だったら、私はきっと手が震えて、切り口を縫い合わせることもできなかったでしょう…」と話しました。

 医師はしばらく考え込んだ後、「もし神が人間を創造したのであれば、私は毎日メスを使って何人もの人から身体の一部を切り取っている。私は、自分が良いことをしていると、そう思っていた。しかし、来世ではそれを償うために、一体自分は何に生まれ変わらねばならないのだろうか?」と述べました。

 北欧出身のナンシーは背が高く頑丈で、歩くのもとても速い。男性的な雰囲気を持ち合わせ、優越感と自信に満ちています。生活の中のどんな困難も、彼女にとっては簡単に解決できるかのようでした。しかし、ナンシーは唯一、人間がコントロールできない問題が自分の身にふりかかろうとは思いもしませんでした。

 がんの原因は、はっきりと説明できないし、治療法もありません。乳がんは彼女の命を奪うかも知れず、それに彼女は怯えていました。彼女は死をも覚悟しましたが、あまりにも多くのアクシデントが起こりました。手術の途中で突然停電したり、地震で天井の照明が落ちて彼女の胸に命中するなど、普通では考えられないような事ばかりだったのです。最もショックだったのは、彼女が医師たちの会話で自信をなくした後、傷が一向に回復しないことでした。しかし、医師たちが話していたのは自分のことではなく、別の患者のことだったと知ると、その後すぐに自分の傷が癒えるのを経験したのです。

 これらの経験から、ナンシーは心と身体が密接に繋がっていることを自覚しました。その後、ナンシーは私を再び訪れて、業(カルマ)やスピリチュアルなことを考え始めたと言い、「先生、私は自分を見つめて反省することにしました」と報告しました。

 ナンシーは、「私は他人に対して、いつも厳しく要求していました。いつも高い基準で他人を評価していたのです。誰かが大学へ行けなければ、それはその人が怠け者だからと決めつけていました」と語りました。

 「私は、家を離れて落ち着く場所もない多くの子供たちを助けましたが、それと同時に彼らの母親は、母親になる資格もないと決めつけて、彼女たちを刑務所に送っていました。弟とは一度ケンカをして以来、数十年も口をきいていません。医師や看護士たちは私と会うと、とても緊張しています。緊張のあまり私に注射をするとき血管を見つけられなくなった看護士もいたくらいです…」

「私の魂が、手術室で自分の体にメスが入り、体の一部が切りとられているのを見たとき、私が感じたのは肉体的な苦しみよりも精神的な苦しみでした。神が私に与えてくれた命は、健康でエネルギーに満ち溢れていました。でも、私はこの命を大切にしませんでした。まるで単なる車のように扱って、あちこちぶつけて傷だらけにしてしまいました。医師は神の指示に従って、私に罰を与えたのでしょう…」

 「結局、58年間私の体の一部だった両方の乳房がなくなりました。その時初めて、私は女性の象徴であるこの一部を神に返したことに気づきました。私はあまりにも強情でした。昔は、男性と同じようになりたいと思ったこともありましたが、今男性のような平らな胸になってみると、突然心のバランスをなくし、空しさを覚えたのです…」と言って、ナンシーは深いため息をつきました。

 

(翻訳編集・陳櫻華)