農科学もうひとつの道 完全自然農法

3. がんの原因は肥料と農薬~石油由来の毒に注目せよ

原因不明で、かつ治療法もない病気を「難病」という。日本では年々増加し、令和元年7月の時点で国の指定難病が333個におよぶ。また、がんの罹患率は、いま日本人の2人に1人にもなり、ほかに脳卒中や心臓病、糖尿病など、いまや深刻な病気が誰にでも襲ってくる時代になっている。では、さまざまな病気の原因は何だろうか。そして、病気になることは決して避けられないのだろうか?

ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA(ピクスタ)

病気の原因として、多くの人が「食べ物」を思い描くに違いない。そして、「石油由来の農薬」が危険であることも、薄々は感じているのではないだろうか。しかし、現実には農薬の危険性が表立って議論されることはほとんどない。そのため、食べ物の安全性について疑問を持ったとしても、日々の忙しい生活のなかですぐに意識から消えてしまうだろう。また、たとえ疑問が膨らんできたとしても、「生きていくのに必要な食べ物をつくるために、農薬がどうしても不可欠だ」と説得されてしまうと、消費者は反論のしようもない。

ところが、いまは対応策が見えてきている。私たち個人の意識と行動で、病気にならない生活を実現することができる時代を迎えているのだ。

農薬と病気の因果関係については、ふだんマスメディアなどで報じられる機会はないものの、インターネットの普及によって、少しではあるが、情報を集めることが可能になっている。そして世界は、あきらかに農薬の規制に向かって動き出している。その大きな転換点になったのは、2018年8月、米・カリフォルニアで行われた裁判の評決だ。その内容は、小学校のグランドキーパーをしていた男性が、除草剤を常用していたために末期がんになったと化学メーカー「モンサント社」(現在バイエル社が買収)を訴えたもので、陪審が原告の主張を全面的に認め、多額の賠償金をモンサント社に命じた。

この裁判のニュースは世界中を駆け巡り、先進国、途上国を問わず消費者の意識を目覚めさせることになり、一気に規制の波が起きている。裁判では、さまざまな証拠書類が提出された。そこで分かったのは、農薬による健康被害の研究論文は、いたるところで発表されていたという事実だった。

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

たとえば、裁判で焦点となった除草剤の成分「グリホサート」の毒性については、次のようなレポートがある。グリホサートは発がん性があることは多くの症例によって明らかになっているが、とくに腸内細菌叢を破壊する作用が顕著で、アメリカの小麦畑でのグリホサート使用量の増加と、腸内疾患による死亡者数の推移が、見事に重なっているというグラフが公表されている。
(引用 Samsel A, Seneff S. Glyphosate, pathways to modern diseases II: Celiac sprue and gluten intolerance. Interdiscip Toxicol. 2013;6:159–84.)

この論文は、インターネットでも公開されているので、ぜひご参照いただきたい。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24678255/

グリホサートという除草剤成分は、世界中で家畜飼料の栽培にも大量に使われているため、家畜糞を処理した肥料にも残留している可能性が高いと考えられている。つまり、多くの農作物だけでなく、食肉にまでグリホサートの汚染が進んでいるばかりか、家畜糞堆肥を使っているオーガニック野菜にまで、汚染は進んでいるのだ。実際、アメリカの裁判結果を踏まえて、消費者グループや生協などによる調査結果が公表されている。このほか、農業の現場で使用されている農薬は世界的にも数百から数千種類におよぶ。石油由来の農薬は、微量でも人体に蓄積し続け、ある日突然、「病気」として表に現れることになる。

EKAKI / PIXTA(ピクスタ)*写真はイメージです

一方、病気の治癒という視点から対応策を考えてみよう。数多い難病のひとつに「多発性硬化症」という病気がある。脳の神経細胞に異変が起き、手足のマヒや失明が症状として現れる。この難病を克服したご夫婦に取材したことがある。千葉県多古町にお住いの矢澤淳良(やざわ・あつよし)さん、香代子(かよこ)さんご夫妻。難病が発症したのは香代子さんのほうだった。1999年10月、当時59歳だった香代子さんが、家事の最中に手のしびれを訴え、翌日には足も動かなくなり、即入院となった。そして7年間の闘病の末に右目は失明し、将来を悲観する毎日だったという。

その様子に心を痛めた夫の淳良さんは、自然治癒力を働かせるさまざまな情報を集め、2007年、一切の薬を断ち、ご夫婦でファスティング(断食)を基本にした食習慣にチャレンジした。すると、1か月後には、香代子さん自身が身体の変化を自覚できるほどになり、4か月後には、発病する以前の状態に戻ったという。香代子さんは、右目の視力は失ったものの、左目の視野は十分にあり、車の運転もできるほどに回復している。

決め手になったのは、毒(農薬)を身体に入れないようにしたことだ。毒を入れないようにすると、身体は「毒の排出モード」に切り替わり、病気そのものの原因を取り除いてくれる。さらにファスティングのあとは、肥料と農薬を使っていない農作物、つまり自然農法による食べ物に切り替えている。それが健康な生活を維持しているのだという。

kotoru / PIXTA(ピクスタ) *写真はイメージです

矢澤さんは、自ら自然農法の野菜づくりを実践しているほか、日常的に食べるものを自然食に切り替えている。肥料、農薬を使わない自然農法は、食糧問題を解決するだけでなく、健康問題をも解決する可能性を持つ。注目すべきポイントは、自然農法の仕組みが解明されて、だれにでも実践できる時代になっている、ということだろう。

つづく

執筆者:横内 猛
自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。
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