朝のコーヒーで感じる刺激は、脳にだけ影響するのではなく、細胞の奥深くに届き、老化を遅らせる可能性のある生物学的スイッチを切り替えます。
最近の研究は、カフェインが細胞の「パーソナルトレーナー」のように働き、ジムでの運動やカロリー制限によって活性化される長寿経路を、ちょうどよい程度に刺激することを示唆しています。
「ある意味、適度なストレスは有益です」と、研究の主任著者で博士研究員のジョン・パトリック・アラオ氏はエポックタイムズに語りました。
長寿の背後にある細胞の仕組み
『Microbial Cell』に掲載された研究は、カフェインが細胞にストレス様の応答を誘発し、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)と呼ばれる長寿経路を活性化することを明らかにしました。
AMPKは細胞の「燃料計」のように機能します。エネルギーが不足したりストレスを受けた際に活性化し、細胞に資源を節約させ、損傷を修復し、自身の一部をリサイクルして欠陥部分を取り除きます。
生物学では、過剰なストレスは細胞を害しますが、少量のストレスは適応と修復を促し、損傷の蓄積を防ぎます。時間が経つにつれて、これは組織をより健康に保ち、長寿を支えることにつながります。
「少なくともカフェインに関しては、研究は、カフェインが細胞にある種のストレスを与えることでAMPKが活性化されることを示唆しています」とアラオ氏は述べました。
アラオ氏は、カフェインが酵母細胞に与えるわずかなストレスが保護遺伝子を活性化し、細胞を修復モードに保ち、損傷の蓄積を防ぎ、寿命を延ばすと指摘しました。彼はこれを「常にメカニックがそばにいて、問題を早期に発見してくれるようなもの」と例えました。
「カフェインがこの経路を自然に活性化することは、栄養ツールとしての価値を示しています。朝のコーヒーのような一般的なものが、長期的な健康を改善し、がん治療をサポートする食事や治療の設計に役立つ可能性があります」と、研究に参加していないラッシュ健康老化研究所の医師科学者で助教授のトーマス・M・ホランド氏は述べました。
研究者は実験に分裂酵母細胞を使用しました。この発見はヒトに直接適用できるものではありませんが、酵母はヒトの細胞と類似した経路を持っています。
ホランド氏は、この研究が酵母を使用し、ヒトに対する具体的な摂取推奨を提示していない点を指摘しつつも、他の研究が適度なカフェイン摂取を支持していると述べました。
カフェイン誘発ストレスの潜在的リスク
カフェインによる細胞への軽いストレスは、細胞をより早く小さく分裂させるなど、長寿に関連するプロセスを引き起こします。しかし同じ応答は、分裂前に問題を検出・修復する時間を減らし、DNA損傷に対して細胞を脆弱にし、損傷が通過しやすくなる可能性があります。
これは、DNA損傷の修復が困難な「運動失調毛細血管拡張症(ATM)」などの遺伝的疾患を持つ人に特にリスクをもたらします。
「ATM変異がある場合、カフェインはおそらく良くありません」とアラオ氏は述べました。「しかし、健康でこれらの変異がない場合、カフェインはストレスを活性化し、DNA修復機構を作動させます」
ただしアラオ氏は、カフェインの効果が酵母細胞からヒトにどのように適用されるのかについては大きな疑問が残っていると指摘しました。ヒトではAMPKが心臓や骨格筋などさまざまな組織で異なる形態をとるため、その仕組みは複雑です。
またアラオ氏は、AMPKシステムは健康な細胞では保護的に働きますが、一方で代謝ストレス下ではがん細胞の生存を助ける可能性もあると述べました。
長寿に最適なカフェインの量は?
複数の大規模研究が、コーヒー摂取をより長く健康な生活と関連付けています。最近の30歳以上の約5万人の女性を対象とした研究では、1日約315mgのカフェイン ― 大きめのコーヒーカップ約1.5杯分 ― を摂取する人は、主要な慢性疾患なく健康に老化する可能性が高いことが分かりました。
『The Journal of Nutrition』に掲載された別の研究では、1日1~3杯のコーヒーを飲む人は、飲まない人に比べて死亡リスクが15%低いことが示されました。ただし、この研究は、乳製品ベースのクリーマーに含まれる砂糖や飽和脂肪と一緒に摂取すると、コーヒーの健康効果が減少することも指摘しています。
「通常、1日200~400mg、つまりコーヒー2~4杯程度が、ほとんどの成人にとって安全で潜在的に有益であると研究で示されています」とホランド氏は述べました。
さらにホランド氏は、カフェインは植物ベースの食事や定期的な運動と組み合わせたバランスの取れたライフスタイルの一部として摂取するのが最も有益であると強調しました。コーヒーやお茶など天然のカフェイン源にはポリフェノールや抗酸化物質が含まれ、炎症の軽減、代謝改善、酸化ストレス低下を助け、がんリスクの低減に関連する可能性があると指摘しました。
ホランド氏と同様に、登録栄養士で栄養ライターのメリッサ・ミトリ氏もサプリメントやエナジードリンクを避けることを推奨しています。
「一部のエナジードリンクやサプリメントにはカフェイン無水物など、より濃縮された形のカフェインが含まれており、コーヒー1杯に含まれるカフェインよりも大幅に高用量で強力な摂取となります」とミトリ氏は述べました。
さらにミトリ氏は、さらなる研究が必要であるものの、適度なカフェイン摂取が化学療法などの治療による潜在的な損傷を軽減し、がん治療中に健康な細胞を保護する可能性があると指摘しました。
最後にアラオ氏は、 「カフェインはAMPKを活性化します。AMPKはカロリー制限や運動によっても活性化される重要なターゲットであり、これらが寿命を延ばすことはすでに証明されています」と述べています。
他の長寿ソリューション
カフェインは、これらの細胞経路を通じて長寿に関連する唯一の化合物ではありません。ほかの物質や食事も、すでに同じ長寿促進システムをターゲットにすることが知られています。
たとえば、ラパマイシンは細胞の成長と栄養への反応を制御するタンパク質複合体TORC1(Target of Rapamycin Complex 1)を直接阻害し、細胞の成長機構を遅らせます。
広く使用されている糖尿病薬メトホルミンは、インスリン感受性を改善しますが、TORC1に直接作用するのではなく、細胞のエネルギー状態を低下させ、その結果としてAMPKを活性化します。
慢性的な過剰栄養 ― 特に砂糖、精製でんぷん、超加工食品が多い食事 ― はAMPKを不活性化し、TORC1経路を活性化して成長を促進し、老化を加速させます。
「砂糖や高脂肪の西洋食を多く摂ると、TOR(Target of Rapamycin)は常にオンになり、老化につながります」とアラオ氏は述べました。
対照的に、低タンパク食や断続的ファスティングなどの食事制限はAMPKを活性化し、長寿に重要な細胞清掃プロセスを促進します。
さらに彼は、 「基本的に、体が自分自身を分解し始め、損傷したタンパク質などを清掃することが重要であると思われます」と付け加えています。
(翻訳編集 日比野真吾)
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