「病気の9割は自分で治せる」自己治癒力を高めるために

私たちは、年に何度かは「体調がすぐれない日」があります。

場合によっては「病気」と言わざるを得ないケースもあるでしょう。しかし、「病気になった」の次の行動として、「すぐに病院へ行く」ということを、現代の私たちはあまりにも早く、まるで電流がショートするように想起してしまう傾向があるのではないでしょうか。

「すぐに病院へ行くか。自宅で様子を見るか」

医療は役に立たない、と言っているのではないのです。もちろん病院の医療は、病気を治すことができます。

しかし、全てを病院に依存する必要はなく、いま体に現れている症状の意味を正確に把握して、すぐに病院に行くか、しばらく様子を見ながら自分で療養するかを、落ち着いて考えてみてもいいのではないでしょうか。

確かに「手遅れになって悪化しないうちに、早く病院へ行ったほうがいい」という考えも、心情として理解できないわけではありません。それが幼児であったり、高齢者であったりすれば、家族としてそう考えるのも無理ないことです。

そこは、適切に判断しなければなりません。例えば、細菌ウイルスの感染症であれば、とても素人の自宅療養では手に負えませんので、一刻も早く病院へ搬送するべきでしょう。

先日まで全国で猛威をふるったデルタ株の第5波では、本来ならば入院するべき患者さんであっても、病院側に受け入れ可能なベッドがなく、自宅療養を強いられるケースが相次いで起こりました。

もちろん医療現場も、まさに文字通り「懸命の努力」をされていたことは、重々わかっています。しかし残念ながら、自宅療養中だった患者さんの容体が急変して亡くなるという、痛恨の事例が数多くありました。

悲しみを胸に刻むため、ここに書きます。コロナ感染しても病院に入れず、たった一人で自宅療養中だった妊婦さんがいました。

室内で早産したものの、赤ちゃんを受け入れる病院が見つからず、その赤ちゃんは助からなかった、と言います。

想像を絶する現場の状況だったはすです。お母さんが、生まれた我が子の助けを求めて電話に叫ぶ声が聞こえてくるようです。ただただ、目を閉じ、涙を浮かべて両手を合わせるばかりです。

どの時点で駆けつければ赤ちゃんが助かったかは、分かりません。ただ「できることは他になかったのか」の悔しさは、ぬぐいきれないのです。
 

自然治癒力」は誰もが持っています

病院は、そうした意味で必要であり、その任務が重大であることは言うまでもありません。

しかし、それは自力では難しい病気や、素人には手に負えない重傷の場合に求められる医療の機能であって、病院に行くほどではない体調不良を「病気」と思ってしまい、安心を求めるように医療に頼り過ぎると、かえって健康回復への道が遠回りになってしまうのではないでしょうか。

本記事の主旨は、病院の必要性は担保しつつも、人間が本来もっている自然治癒力を信じて、それを見直すことによって健康への新たなアプローチを目指すものです。

台湾の屏東県屏東市にある淮元漢方医院の医師・許騰鴻氏によると、自己治癒力とは「自分で体を調節し、正常な状態に回復させる能力」と説明した上で、「体調が安定すれば自然治癒力も高まり、小さな病気はすぐに治り、大きな病気にもなりにくくなる」と言います。

自然治癒力が網羅する範囲は非常に広く、代謝、免疫力、傷の修復、血圧、血糖、内分泌、神経系などが含まれており、いずれも体調を整え安定させるはたらきがあります。

簡単に言えば、風邪をひいたとき、くしゃみ、鼻水、汗、痰などが出ますが、それが病気なのではなく「体内の毒素や異物を排出するための正常な反応である」と思えるかどうかということです。

同様に、風邪で発熱したときも、熱が出ること自体が病気なのではなく、「体の正常な反応として熱を出し、体内のウイルスを駆逐して追い払おうとしている」という発想がもてるかどうかが肝心です。
一般的に、ただの風邪であれば、安静にし、お湯をよく飲んで十分に水分補給することで体の代謝が促進され、早く回復します。

これが自然治癒力の効能であって、それを信じずに市販の風邪薬を重複して飲んだり、粒数を多めに服用したりすれば、かえって体に負担をかけることになり、回復が遠のいてしまいます。

また、風邪ウイルスに対して、体が「正常な反応として発熱している」ときに、市販の解熱剤を飲んでしまうと、消えるべきウイルスが長く体内に残ってしまうのです。

そのほか、よくある下痢ならば、腸内の毒素や不要物を排出するという「全く正常な反応」です。程度によっては苦痛を感じることもありますが、下痢すること自体は「病気」ではないので、あわてず誤解することのないようにしましょう。

「医療が必要な場合」を見極めて

ただし、繰り返しますが、ひどい高熱、ひどい下痢、激しい腹痛など、素人では手に負えない症状の場合は、重大な病気が隠れていることも疑われますので、急ぎ病院へ搬送しなければなりません。
もしも乳幼児やお年寄りがそうなった場合、ご家族は大変心配です。

まずは、かかりつけ医の先生や各自治体にある救急電話相談に電話して、落ち着いて状況を話し、どうするかを相談してください。

ここで話題にしている「自然治癒力」とは、そうした緊急性の有無を的確に判断したうえで、回復の早いことを目指して採用する方法のことです。

許騰鴻氏は、次のような例を挙げています。
許氏の医院へきたある患者は、お腹を壊したので自分で市販の下痢止め薬を飲んだ後、かえってお腹が痛くなってしまいました。その原因は、腸内の汚いものが完全に排出されなかったことにあります。

そこで、下痢止めではなく、排便促進の漢方薬を処方して服用してもらったところ、腸内がすっきりして、辛い症状はすぐに消えたと言います。

しかし、下痢がひどすぎて、重度の脱水を起こしている場合には、下痢を止める必要があります。

また、下痢や嘔吐の原因が何かを正確に診断し、たとえばウイルス性の感染症ならば、全く別の治療法をとらなければなりません。これにはやはり医師の診察が必要です。
 

「自然治癒力を低下させない日常」を目指す

現代の日常生活のなかには、私たちが本来もっている自然治癒力を低下させる要因がたくさんあります。
例えば、仕事疲れ、運動不足、睡眠の質が悪い、暴飲暴食、高脂肪、高血糖、肥満などは、いずれも健康を遠ざける要因となるもので、これらは全て人間の自然治癒力を弱めてしまうのです。

例えば、長期間にわたって過剰な油脂と糖分を摂取し、体が血糖を調整できなくなると、血糖抵抗性と代謝不良が現れて、自然治癒力の限度を超えてしまい、糖尿病につながります。

人間の体内には、普段からがん細胞が循環しています。体が良好な状態であれば、自然治癒力がはたらいていますので、Tリンパ球やマクロファージ、一部の免疫細胞などが、がん細胞を死滅させることにより、がん細胞を一定量以下に制御した状態を維持します。

しかし、そのバランスが崩れ、免疫システムや循環代謝システムが悪くなると、がん細胞を死滅させないだけでなく、がん細胞の増殖に有利な酸性体質になって、各種のがんを引き起こす要因にもなります。

そうした病気を招く要因は、生活の改善によって、できる限り除去しなければなりません。
もう一つ、自然治癒力の維持に重要なことを申します。精神状態を、良好な状態に保つことです。
気分転換やストレス解消などは、自然治癒力を保つうえでも非常に大切です。

許騰鴻氏は、ストレスなどによって受ける精神面の負担は、現代人の健康に大きな影響を与えていると言います。人は、気分が良い時には、内分泌系から抗炎症作用のある物質が分泌されます。

そのため、ストレスを感じて気持ちが辛くなったときは、心身の両面をリラックスさせるような、気分転換の方法をいくつか用意しておくといいでしょう。

人は、一生のうちで重大な病気に罹ることは、そう多くはありません。病気と感じるものの多くは、体調不良による一時的な症状です。

だとすれば、自然治癒力によって「病気の9割は自分で治せる」と信じることは、間違いではないはすです。
(文・蘇冠米/翻訳編集・鳥飼聡)