「僕たちに助けを求めてきたこの子を、父上は何故断るのですか?」(shutterstock)

チンギス・カンーーモンゴル草原の凱歌(三)王者への路【千古英雄伝】

棘に満ちた王者への道(1)

タイチウト氏の首長はテムジン兄弟とその母ホエルンを追い出し、真冬の厳しい自然環境の中に置き去りにして死なせようとしました。しかし、気の強いホエルンは野生の果物と野菜を掘って食べてでも、子どもたちを育てようと決心したのです。貧しいけれど、テムジン兄弟らは母親の大きな翼の下で、ゆっくりと成長していくことができました。

テムジンが生まれながらにして血のような赤い石を握りしめていることを思い出したタイチウト氏の首長は、テムジンがいずれ復讐しに戻ってくるのではないかと心配し、後々の心配を取り除くために追っ手を送りました。

密林まで逃亡したテムジンは9日間ほど森の奥に隠れ、その間、食べ物が見つからなかったため、数少ない果物だけで空腹をしのぎました。これ以上、森の奥にいたら餓死するかもしれないので、テムジンは逃亡をやめ、刀を握りしめ、死ぬ覚悟で森を出ました。案の定、森を出た瞬間、待ち伏せしていたタイチウト氏族の兵士たちに捕まえられました。

タイチウト氏の首長がテムジンの息を止めようとしたその時、ある不可抗力により動きが止まり、テムジンの鋭い光を宿した目を見た瞬間、かつて仕えていたイェスゲイが見えたかのようで、戦慄を感じました。結局、テムジンを殺さず、その代わりに鎖をかけて奴隷として扱い、テムジンの精神を壊そうとしました。

 

棘に満ちた王者への道(2)

心の中に未来への希望を抱き続ければ、いずれ自由に空を羽ばたけます。常に強い意志を持っていれば、いずれ檻を破り、強敵を負かすことができます。奴隷のように扱われたテムジンは、鎖によってできた傷口が腐り、蛆やハエにその肉をかじられ、尋常ならぬ苦痛に耐えてその時を待ちました。

ある満月の夜、タイチウト氏の領地内では宴会が開かれました。宴会が最高潮を迎え、皆酒に酔っている頃、テムジンは見張り役の隙を突いて、気絶させ、ついに檻から脱出することに成功しました。

しかし、目の前に広がるのは広大な草原です。馬すらなく、両足だけでどこまで逃れられるというのでしょうか?林に逃げ込んでもすぐに見つかってしまうので、テムジンは川の中に身を潜め、ゆっくりと泳いでいきました。

テムジンが逃げたことを発見したタイチウト氏族の者は月明りを頼りに捜索を始めます。タイチウトの隷臣として仕えていたスルドス氏のソルカン・シラは川沿いの捜索で偶然テムジンを発見しましたが、低い声で「タイチウト氏族の者は決してあなたを生かさないだろう。このままここに隠れなさい。後で秘かに逃がしてあげよう」と伝えると、そのまま捜索のふりを続けながら去っていったのです。

結局、テムジンの姿を見つけられなかったタイチウト氏族の者たちは川沿いをもう一度探そうとしましたが、ソルカンが「鎖をつけた子供がこんな暗い中でどこに逃げられるというのです?明日、日が昇ってから探しても遅くはありません」と引き止めました。ソルカンの言うとおりだと思った首長は、翌日の朝再び捜査を開始するよう命じました。

皆各自のテントに戻って休んだのを見て、ソルカンは秘かにテムジンのところに戻り、首長の命令を伝え、「早くここから離れ、母上のところに戻りなさい。私があなたを助けたことを決して誰にも話さないと約束してくれ」と言いました。

通常なら、危険を免れた人はすぐさま安全なところへと逃げるはずですが、しかし、テムジンは違いました。「自分が捕虜にされてから、各家が順番に見張っていたが、ソルカンだけは、夜寝る時、鎖を外してくれて、そして今日、逃がしてくれた」。こう考えたテムジンは大胆にも、ソルカンに会いに、タイチウト氏族の領地に戻ったのです。

早く逃げるようあれだけ言ったのに、まさか引き返してくるとは思いもしなかったソルカンはテムジンを見た瞬間、「早く家に帰るよう言ったばかりではないか!なぜまた戻ってきた?!」と怒りました。

ソルカンの2人の息子チンバイとチラウンは父親の怒りを見て、「檻から抜け出した小鳥が森の中に逃げ込むと、木影や葉っぱは小鳥を庇って、敵から守ってあげるのに、僕たちに助けを求めてきたこの子を、父上は何故断るのですか?」とテムジンのために助言しました。

(つづく)

(翻訳編集 天野秀)

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