チンギス・カンーーモンゴル草原の凱歌(一)王者への路【千古英雄伝】

モンゴル帝王の降臨

帝王の誕生を迎えるため、天命を受けた蒼き狼と青白き鹿がバイカル湖のほとりに降り立ち、モンゴル人の聖地・ブルカン・カルドゥンに神話の足跡を残しました。運命の手配により、大小さまざまな国が築き上げられましたが、予想外にも僅かな時間の中で衰退していきました。

合併と分裂を繰り返す戦争も、間もなくこの土地を統一する王の降臨を待ち望んでいるかのようです。運命の糸は不可抗力のもとにテムジンの祖先、ボドンチャルに結び付きます。

その母、アラン・ゴアは早くに夫を亡くした後、天から届いた光を感じて、夫を持たないまま3人の息子を授かりました。ボドンチャルはまさにそのうちの1人です。

ボドンチャルは生まれながらにして口数が少なく、通常の子どもと少し違っていたので、皆に阿呆と嘲笑われましたが、その母だけは、「この子は阿呆ではない、その子孫は必ず大きな功績を収めるであろう」と常に言ってきました。

アラン・ゴアが亡くなった後、残された兄弟たちで家財を分割しました。 皆は、ボドンチャルを嫌っていたので、その分の家財を奪ったのです。これを見たボドンチャルは、「富貴にせよ、貧賤にせよ、皆命なり」と言い残し、白い馬に乗って去っていきました。

時が流れ、テムジンの時代がやってきました。テムジンが生まれた時、ちょうどその父、イェスゲイがタタル族の首長であるテムジン・ウゲを捕まえました。
当時の習わしによると、勇士を捕まえた時、赤ん坊が生まれると、その勇士の武力と勇気は生まれた赤ん坊に乗り移ると言われていたので、イェスゲイはこの赤ん坊を「テムジン」と名づけました。

テムジンは生まれながらにして「血のように赤い石」を握りしめていることから、生殺の大権を所管すると言われています。しかし、まさか王になるべくして生まれたテムジンが、ユーラシア大陸の新たな局面を切り開く責任を担っているとは、この時、誰も思いませんでした。

(つづく)
(翻訳編集 天野秀)