9月27日、故・安倍晋三元首相の国葬に出席した万鋼・全国政協委員会副主席と挨拶を交わす岸田文雄首相(Photo by KAZUHIRO NOGI/POOL/AFP via Getty Images)

日本と中国、次の50年「政冷経熱」維持できず=専門家

日中国交正常化から50年を迎えた9月29日、岸田文雄首相と習近平主席が互いに祝辞を交換した。「建設的かつ安定的」で「新時代にふさわしい関係」といった前向きな言葉がそれぞれ並んだ。特に、国交正常化について中国国家主席からの祝電発表は初となり、米国との対立を背景に対日関係を重視していると言われている。しかし、日本周辺では中国共産党が軍事訓練や領海侵入を続けており、日本世論の対中感情は継続して「好ましくない」が大勢を占める。向こう50年の日本と中国の関係を、識者らはどうみているのか。

父は政治生命を賭けて

「お前たちの世代になれば、中国の人々が日本に来て旅行や買い物を楽しんだりする時代が来るように。だからお父さんは中国に行く」。1972年に北京へ渡る前、当時の田中角栄首相は長女・真紀子氏にこう話したという。同年9月29日、田中首相と周恩来首相による日中共同声明署名で、両国は国交を正常化させた。真紀子氏は、父親は政治生命を賭けて交渉に望んだと語った。

50年経て2022年、中国経済は著しく成長し米国とは貿易戦で激しく争うほどとなった。年々軍事力を増強させ、インド太平洋地域周辺国に不安定要素をもたらしている。「だからこそ親密な交流が日中には必要だ」と真紀子氏はVOAの取材に語った。中国SNS微博によれば同氏は駐日中国大使館主催パーティに出席し、日中は「文化やスポーツ、科学技術などの交流を深め、相互の平和に努め、発展の青写真を共に描く」と述べたという。

しかし真紀子氏の言葉とは裏腹に、日本世論の対中感情は悪化の一途を辿る。調査大手ピューリサーチセンターの世論調査では、中国を「好ましくない」と思う日本人は10年間継続して8割以上に及んだ。日本のシンクタンク言論NPOの世論調査では「今年が国交正常化50周年であることを知らない」と答えた人は67.1%に達し、1978年に締結した日中平和友好条約が機能していると答えた人はわずか8.3%だった。

背景には、中国共産党による継続的な軍事力を背景にした日本に対する圧迫がある。尖閣諸島や南西諸島地域における中国海軍艦艇の領海侵入や接近は続き、ペロシ米下院議長の訪問に反発して日本の排他的経済水域(EEZ)にミサイル5発を着弾させた。日中国交正常化50年となる9月29日にも「共同パトロール」と称した中露艦艇編隊の日本周回が行われた。

日中関係 改善遠く

東京国際大学国際関係学部の河崎真澄教授によれば、中国のこうした示威活動に加え、新型コロナ発生源調査の不透明感や責任転嫁、ロシア・ウクライナ戦争と中国のロシア制裁不参加などの影響もあり、「日本社会のなかで日中関係への期待は高まり難い状況だと指摘する。

日中関係はここ十数年「政冷経熱(経済活動は活発だが政治的には距離を保つ)」といった状態が続いている。岸田首相は9月末のニューヨーク国連総会演説で中国問題には触れず、慎重姿勢だった。政府は同月26日、コロナ禍後の経済促進のため、水際対策の緩和や外国人観光客の受け入れ制限の撤廃を発表した。

台湾淡江大学の徐浤馨教授は、岸田政権は経済界の声を受けて訪日観光の門戸を開いたが、ゼロコロナ政策のように行動制限や封鎖解除時期など中国の防疫政策は予測が難しく、中国観光客については明るい見通しは持つべきではないとした。

「経済は熱く」の背景には、中国による日本経済界の浸透工作があると河崎氏は指摘する。一部の経済団体は「国交正常化以前から、中国は日本世論を分断させ、親中派を育て、さまざまな特権や恩恵を与え続けてきた」「将来日本の国家安保危機よりも短期的な企業利益を優先して、中国との関係を築こうとしてきた。こうした経済界の姿勢により自民党政権もプレッシャーを受けている」と述べた。

大紀元の取材に応じた、自衛隊の元航空幕僚長で保守評論家の田母神俊雄氏は、従来の日本の対中融和姿勢は中国(共産党)に対する変化の期待が含まれており、誤った判断だと指摘する。

「日本は中国に政府開発援助(ODA)で投資を続けてきた。1989年六四天安門事件の時も、欧米が手を引いたにもかかわらず日本だけが手を差し伸べた。『国際社会に関わっていれば中国はやがて開かれた社会と豊かな国になるだろう』と期待した。しかし、今日の中国を見ても(自由民主主義に移行するような)変化の兆しは見えない」

こうした政治判断には、マスメディアの報道もあるとも分析する。「人口が多いからよいビジネスができる、モノが売れる、という情報に取り込まれていった。しかし、中国は一向に開かれた社会にはならない」。田母神氏は、香港が50年の自治権を保障した中英共同宣言を反故にされ、たちまち自治体制が崩された例を挙げ、中国の強引さへの警戒は怠ることができないと警告した。

維持できない「政冷経熱」

河崎氏は、団塊世代の多くは中国と社会主義に幻想を抱いており、「日中国交正常化50周年を経済回復の鍵として捉え、経済振興のきっかけともみている」と語った。日本の大手経営者たちがこの経済低迷期に中国と「政冷経熱」を維持できると思っているならば、ナイーブな考え方だと述べた。

さらに、10月16日から北京で開かれる中国共産党第20回全国代表大会で習近平氏が3期再選すると、「日米、日台を二分する計画を強化し、台湾奪取を果たせば次の目標は日本になる」と指摘する。その狙いは「日本に影響を与え世論を操作し、米国を弱体化させることだ」という。

中国共産党政権による技術盗用や知的財産侵害をあげ「日中共同繁栄などの理念は実現しない」と指摘。「中国経済に依存し続けることは日本をますます苦境に追い込むだけだ」と警告した。

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