古代中国の秘術:干支と陰陽五行が描く健康への鍵(上)

今年2023年は卯年ですが、本来の干支でいうと癸卯(みずのと・う)です。この年は夏に火のエネルギーが不足し、雨が多く、涼しく、湿っぽい天候となる傾向があります。そのため、脾胃の湿邪や下痢などの消化器系の不調が例年より出やすくなります。脾を強め、湿を払う食材を食べて、脾胃を守りましょう。 

未病を治す上医の秘密

古来、漢方医は病気を未然に治療することを語っていましたが、現代人は健康管理の文字通りの意味しか知らず、自分の体のことばかり気にして、病気を防ごうとします。しかし、これでは病気を真に予防することは難しいのです。生命の世界では、自然界の気候の変化が分からないため、年間の気候が人体にどのような影響を及ぼし、どのような病気が蔓延するのか、事前に予測することはできません。

内臓がどう反応するか、どんな不快な症状が出るかを予測するだけでは、病気を真に予防することはできません。また、医師にとって、病気を完全に治すことは難しい場合もあります。

わかりやすく言えば、「天地人三才一体」という宇宙的な概念を医療に応用したものです。つまり、季節ごとの気候変動の特徴を事前に予測できなければ、季節ごとにどのような病気が流行するのか、どの内臓が病気や不調の影響を受けやすいのかが分からず、対処することができなくなります。

これらの理論は、「黄帝内経」という7つの大きな論文で詳しく議論されており、人々はこれらの理論を「五運六気」という医学用語でまとめました。 この理論によれば、木・火・土・金・水の天地五行が世界を駆け巡り、人体に風・寒・暑・湿・燥・火の6つの気候変動が影響を与えるとされています。

自然の気候が毎年どのように変化し、それが身体にどのような影響を与えるのか、そのような壮大な学問を誰が完全に把握できるでしょうか。実は、それは決して難しいことではなく、古代の人々はすでに計算方法を確立していました。しかし、現代の私たちには陰陽五行の考え方が欠如しているため、これを理解するのは難しいことかもしれません。

しかし、今日のこの短い文章では詳しく論じることは不可能です。代わりに、この夏の概況を簡単に説明し、自分の体質に応じた病気の予防に気を配る方法を提案したいと思います。

ご存知のように、中国古代の人々の紀年法は還暦です。還暦とは、干支(えと)と呼ばれる、十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)の組み合わせです。

十干は甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己(き)・庚(こう)・辛(しん)・壬(じん)・癸(き)の10日のまとまりで数えるための呼び名でした。

10日ごとに、「一旬(いちじゅん)」と呼び、3つの旬(上旬、中旬、下旬)で1か月になるため、広く使われていました。 

十二支は、もともと12か月の順を表わす呼び名でしたが、後にこれらに12種の動物を当てはめるようになりました。具体的には、子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)です。

干支の組み合わせは60通りあり、六十干支(ろくじっかんし)と呼びます。これが一巡すると還暦となります。つまり、古代人は天文や地理を観察して、それを人間の生活に応用し、人事に対処していたわけです。

もちろん、人事の中でも特に重要なのは、国民の衣食住や病気です。そのために黄帝は五千年前に「天地人三才一体」という宇宙的な概念と陰陽五行暦を定めました。それは農業や医療に生かすためと言われています。各年を天干地支に割り当てることは、決して無駄ではなかったといえます。

(つづく)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。