5月5日は、日本では「こどもの日」、中国では「端午節」として知られる伝統行事の日です。実はこの日、中日両国で祝われる行事の起源や意味、風習には共通点が多く、さらに古代の自然観である「陰陽五行説」とも深く関係しています。
中国の端午節──屈原の精神と五行の守り
由来と象徴
中国の「端午節」は、戦国時代の詩人・政治家であった屈原(くつげん)の死を悼むことから始まったとされています。川に身を投じた屈原の魂を慰め、遺体を魚から守るために、米を包んだ「粽(ちまき)」を川に投げ入れたことが、その由来といわれています。
この日は旧暦の5月5日、「陽」の数字である「5」が重なることから「重五(ちょうご)」の日とも呼ばれますが、一方で陰陽五行の観点では「九毒日」とされ、陰の気が増して邪気が強まると考えられてきました。そのため、古代中国ではこの日を、災いから身を守るための重要な節目ととらえ、さまざまな厄除けの風習が発展しました。
なかでも代表的なのが、「香りの強い草木」や「薬酒」を使った邪気払いです。これらは、五行の中でも「木」や「火」「水」の要素を活用し、季節の変わり目に乱れがちな身体と心を整える知恵とされてきました。
菖蒲やヨモギ──邪気払いの「木」の力
端午の節句に欠かせない風習のひとつが、菖蒲やヨモギを軒先や玄関に吊るすというものです。これらの植物は五行説において「木」の性質を持ち、強い香りとともに、生命力や浄化の力を象徴しています。
古代の人々は、5月の節目を「病や災厄が起こりやすい不安定な時期」と捉えており、自然の香りの力=木のエネルギーによって、邪気(金)を払い、身を守ろうとしてきました。これは五行の「木剋金(木は金を制す)」という関係に基づいており、金の性質を持つ邪気に対して、木の力でバランスを取るという考え方が背景にあります。木の力が強ければ金を制衡し、災いを和らげるとされ、自然の循環を活かした暮らしの知恵といえるでしょう。

五行と端午節の伝統
端午節には、他にも五行説に関連するさまざまな風習が見られます:
- 雄黄酒(火+金):解毒・殺菌の力があるとされる薬酒。体内の邪を払い、内側から清める役割を果たします。
- 香包(五行の香りの調合):五行に対応した香料を袋に詰めて身につけることで、五気を整え、外からの邪を防ぐとされます。
端午節は、こうした五行の力を生活に取り入れながら、邪気(陰)を整え、夏(火)の季節への備えをする行事であるとも言えるでしょう。
日本の端午の節句──尚武の心と生命力
日本への伝来と変化
奈良時代に中国から伝来した端午節は、日本では当初「五月忌み」と呼ばれる女性の厄除け行事でした。しかし、鎌倉時代に「菖蒲(しょうぶ)」が「尚武(しょうぶ)」と通じる語呂合わせから、男の子の節句として転じ、武家文化と結びついた男子の健やかな成長を願う日として定着しました。
現代の風習と五行の解釈
- 鯉のぼり(水・木):鯉は「滝を登って龍になる」という中国の伝説から、出世と成長の象徴。水の流れを木(成長)が昇っていくという、五行の「水生木」の流れとも一致。
- 柏餅(木・土):柏の葉は新芽が出るまで落ちないことから「子孫繁栄」の象徴。柏=木、餅=土の恵み。
- 兜・鎧(金):身を守る「金」の力を表すもので、厄除けや強さの象徴。
- 菖蒲湯(木・水・火):菖蒲の香り(木)と湯の熱(火)によって体内の邪気を払い、水による浄化を行う。

このように、日本の端午の節句もまた、自然のバランスを保ち、木・火・土・金・水の五行を日常の中に取り入れて、成長・健康・安全を祈る日として意味づけられています。
家庭でできる五行を活かした祝い方
端午の節句は、こどもの成長や健康を願う大切な行事です。最近では飾り物を省略する家庭も増えていますが、五行思想の視点を取り入れることで、自然と調和しながら、家族みんなで行事を楽しむことができます。
以下は、五行の要素を生活に取り入れる端午の節句の過ごし方の一例です:
- 菖蒲やヨモギを飾って邪気を祓う/柏の葉を使った柏餅を食べる(成長・浄化 ) 木のエネルギー
- 菖蒲湯に入って、心身を清める/赤い飾りや食材で活力を高める (生命力・情熱)火のエネルギー
- 柏餅・ちまきなど土の恵みを味わう (安定・安心 )土のエネルギー
- 兜飾りで身を守る力を意識する/金色の飾りで厄除け(保護・防御)金のエネルギー
- 鯉のぼりを飾る/手洗いや湯浴みで心身を整える(流れ・浄化) 水のエネルギー
親から子へ、伝統と願いをつなぐ時間
端午の節句は、春から夏へと移り変わる季節の節目に、自然のエネルギーと調和しながら心身を整える行事です。手作りの鯉のぼりや柏餅を囲みながら、「なぜこの日を祝うのか」「どんな意味があるのか」を子どもと語り合うひとときは、五行の考えや自然との共存、そして文化の知恵を次の世代へと受け継ぐ大切な時間となります。
変わりゆく時代の中でこそ、こうした行事を通じて伝統の意味を見つめ直し、家族の絆を深める一日にしてみてはいかがでしょうか。
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