コレステロールは、免疫システムが腫瘍を標的にして攻撃する能力を高める可能性があります。

ニューヨーク市にあるマウントサイナイ医科大学アイカーン医学部の最新の研究によると、コレステロールは、がんを認識して攻撃する免疫細胞である「樹状細胞」の機能において、重要な役割を果たしていることがわかりました。

樹状細胞は体内の「斥候（せっこう）」のような役割を持ち、がん細胞などの脅威を察知して免疫システムに警告を送ります。そのためには細胞が成熟し、他の免疫細胞と連携する必要がありますが、この過程にコレステロールが欠かせません。

「私たちは、コレステロールの代謝が成熟した樹状細胞にとって不可欠な経路であることを確認しました」と研究者らは述べています。この発見は、腫瘍に対する免疫攻撃を開始する上で必要不可欠な、樹状細胞の成長プロセスにおいて、コレステロールが中心的な役割を果たしていることを明らかにしました。
 

コレステロールはいかに免疫細胞を活性化するか

『Nature Immunology』誌に掲載されたこの研究では、コレステロールが樹状細胞の表面に形成される「脂質ナノドメイン」と呼ばれる、コレステロール濃度の高い微細な構造を作り出すことが示されました。これらの構造は、免疫系にがんの存在を知らせ、攻撃を促すうえで重要です。

体内のすべての細胞は、正常に機能するためにコレステロールを必要としており、それは食事から摂取されるか、体内で合成されます。

研究者らは、コレステロールが不足すると、これらのナノドメインがうまく形成されず、樹状細胞の成長が妨げられ、免疫システムへの警告機能が低下し、その結果、がんを検出・攻撃する力が損なわれることを確認しました。

樹状細胞は、周囲の細胞（多くは死んでいるか死にかけている）および自らが合成するコレステロールの両方を利用して、免疫応答を高めるための構造を構築しています。

「新たに取り込まれたコレステロールや合成されたコレステロールを動員し、それを細胞膜上の脂質ナノドメインに配列するプロセスが、cDC（古典的樹状細胞）の成熟に不可欠であることを示しました」と研究者らは述べています。

要するに、コレステロールは樹状細胞における通信の中核となる構造を形成し、細胞の適切な成長と、特に肺がんに対する強力な免疫応答を支える仕組みを可能にしているのです。
 

コレステロールの主要な調整因子

研究者らはまた、樹状細胞内のコレステロール代謝を操作することで、体の自然な抗がん免疫防御力を強化できる可能性があることも発見しました。

免疫調節に関与することで知られるタンパク質「AXL」が、これらの細胞におけるコレステロール代謝の主要な調節因子であることが明らかになりました。マウントサイナイの研究チームは、AXLがまるで「ブレーキ」のようにコレステロールの流動を抑え、それによって樹状細胞の正常な成長を妨げる仕組みを解明しました。

研究者らによれば、AXLはコレステロールの移動を制限し、脂質ナノドメインの形成を阻害します。つまりAXLは、樹状細胞の成長や免疫システムとの効果的な連携を支えるプロセスを遅らせているのです。

AXLを阻害することで、樹状細胞の成熟が促進され、がん細胞を攻撃する免疫細胞の活性化、免疫活性化シグナルの生成、T細胞による腫瘍の標的精度の向上など、より強力な免疫応答が誘導されました。

研究者らは、AXLを治療標的とすることで樹状細胞の機能を高め、体内の抗腫瘍免疫応答を強化できる可能性があると述べています。

この研究によれば、この発見は、体の免疫機能を活用してがんと戦う「がん免疫療法」における新たな戦略の扉を開くものです。AXLを標的にすることで、免疫システム本来の抗がん作用を高め、治療効果の向上につながる可能性があります。
 

健全な免疫機能のためのコレステロールの役割

この研究は、樹状細胞におけるコレステロールの役割に焦点を当てていますが、免疫機能全体を維持するうえでも、バランスの取れたコレステロール値の維持は重要です。そのためには、食事や生活習慣が大きく関わってきます。

以下に、コレステロール値を健全に保ち、ひいては免疫機能を支えるための、専門家によるヒントをご紹介します：

• 健康的な脂肪を摂取する：オリーブオイル、アボカド、サーモンなどの脂の乗った魚、ナッツ類など、良質なコレステロールやオメガ3脂肪酸を含む食品を積極的に摂ることが大切です。
   
• 定期的な運動をする：運動はコレステロールの調整に役立ち、心血管の健康を促進します。これは免疫力の向上にも直結します。
   
• トランス脂肪酸を避ける：加工スナック、焼き菓子、揚げ物などは、血中の「悪玉」コレステロール（LDL）を増やし、「善玉」コレステロール（HDL）を減らす可能性があります。

これらの新たな知見を実際のがん治療に応用するには、さらなる研究が必要とされますが、日常生活においてシンプルで健康的な習慣を取り入れることは、免疫機能を支えるうえで非常に有効です。

（翻訳編集　日比野真吾）