西のコーヒー、東のお茶―― 夏の不調に、ひとさじの苦味を
苦味は「心」に入り、夏の養生にぴったり
夏は五行で「火」に属し、「心(しん)」と密接に関わる季節です。炎天下のもとでは心火が高まりやすく、イライラ、不眠、多夢、動悸を感じたり、血圧の変動や異常な発汗などが起こりやすくなります。
中医学では「苦味は心に入る」とされており、苦味には熱を冷まし、湿を取り除き、神経を落ち着かせる作用があると考えられています。つまり、苦味は夏の「心」を養う自然な妙薬なのです。
適度な苦味のある飲み物は、心火を鎮め、気持ちを整え、心臓を守る助けとなります。
コーヒーとお茶、苦味は同じでも心への働きは別物
コーヒーとお茶は、東西を代表するもっとも身近な「苦味ある飲み物」です。どちらも心を養う作用がありますが、そのアプローチは異なります。
- コーヒーは、「苦味+甘味+やや温性」を持ち、気を巡らせ、眠気を覚ます作用があります。一時的に交感神経を刺激し、心臓のポンプ機能を高めるため、「活性型の養心」といえるでしょう。
朝の眠気が抜けないときや、陽気が足りないと感じるときに適しています。ただし、飲みすぎると動悸や不安感、胃酸過多などを引き起こすこともあるため注意が必要です。
お茶は性質・風味ともに多様で、より「調和型の養心」に向いています。
- 緑茶はやや冷性で、心の熱を冷まし、口の苦みやイライラ、吹き出物、多夢などの症状に適しています。
- 紅茶や烏龍茶は温性で、血を養い、神経を落ち着かせる作用があり、動悸や気血不足の人に向いています。
- ハーブティー(ローズ、菊花、合歓花など)は、肝の気を整え、気分を落ち着かせ、心を和ませる効果があり、緊張や不眠が気になる人におすすめです。
食の文化に宿る、古くからの知恵
西洋の食事は油分と肉が多め。そこに苦味と香りをもつコーヒーを合わせれば、脾を助け湿を取り、消化を促す働きもあり、いわば“重い食事”にぴったりの組み合わせです。
一方、中国の食文化は五味の調和を大切にし、茶は体内の乾燥を潤し、気の巡りを整える役割を果たします。五臓六腑のバランスを助ける存在として、食卓に根づいてきました。
同じ「苦味」でも、背景にある文化に根づいた生活リズムや体質の違いを映し出しており、飲み物にも“医”の知恵を見出すという考え方は、東洋と西洋、どちらの食文化にも根づいています。
あなたに合うのは、どちらの一杯?
コーヒーはやや温性で、体が冷えすぎていない人、朝のだるさを感じやすい人、頭をよく使う人に向いています。特に油っこい食事の後には、脾を目覚めさせて気分をシャキッとさせる効果が期待できます。ただし、胃酸が多い方や、不眠傾向のある方は注意が必要です。
お茶は、より繊細な体質の調整に向いています。緑茶は熱を冷まし、「のぼせ」や「イライラ」など火がこもった症状に。紅茶や烏龍茶は脾を温め、気血が不足しがちな方に。花茶(ローズ、菊花、合歓花など)は肝のこわばりをほぐし、心を落ち着かせて、安眠を助けてくれます。
どちらにも共通するのは、覚醒作用があること。いずれも日中の摂取に適しており、就寝前の飲用は避けたほうがよいとされています。
ですから、自分の体質や状態に合った苦味とその取り入れ方を選ぶことこそが、心と神経を本当に養い、心身のバランスを整える鍵となるのです。
心を養う、4つの“苦味ドリンク”おすすめレシピ
① 陳皮と生姜のホットコーヒー
材料:
・ブラックコーヒー 100ml
・陳皮 1枚
・生姜スライス 2枚
・なつめ 1個
・水 50ml
作り方:
陳皮・生姜・なつめを水で5分煮出し、濾してからコーヒーと混ぜます。
おすすめの時間帯:
早朝5:30~7:30(卯の刻/大腸経が活発になる時間)
おすすめの方:
朝の目覚めが悪い、陽気不足、手足が冷えやすい方
おすすめポイント:
陽気が生まれ始める朝に、辛味と苦味のバランスがよいこの一杯は、体を温めながら腸を目覚めさせ、胃を守りつつ頭もすっきりさせてくれます。 血の巡りを促し、脾胃に負担をかけない、朝にぴったりのブレンドです。
② 菊花と煎茶の“清心ドリンク”
材料:
・煎茶 2g
・菊花 3輪
・淡竹葉 3g
・乾燥百合 5g
・水 300ml
作り方:
水出しなら4時間、または70℃のお湯で10分浸出。
おすすめの時間帯:
午前9:00~11:30(巳の刻/心経が活発)
おすすめの方:
心火が高まりやすい、口が苦い、イライラしやすい、仕事で緊張が続く方
おすすめポイント:
心の気が盛んになる時間(巳の刻)に、熱を冷まし、目と神経を休めるドリンクを。煎茶の清熱、菊花の明目、淡竹葉の熱取り、百合の体に潤いを与える効果が合わさり、心を静めて集中力も回復させてくれます。 オフィスの小休憩におすすめ。
③ 玫瑰ココアミルク
材料:
・ココアパウダー 小さじ1
・ローズ(乾燥) 3輪
・黒糖 適量
・牛乳 150ml
・水 50ml
作り方:
お湯でココアを溶かし、牛乳とローズを加えて1~2分温めます。
おすすめの時間帯:
午後13:00~15:00(未~申の刻/小腸経と心の経絡が関わる時間)
おすすめの方:
午後に疲れやすい、女性の月経前後、情緒不安定な方
おすすめポイント:
午後は陽気が落ち着き、感情の波も出やすい時間帯。ローズが肝をほぐして気分を落ち着け、ココアが心を補い、黒糖が血を養ってくれます。 気分がゆらぎやすい時期に、女性の心をそっと整える、甘くてやさしい癒しの一杯です。
④ 麦門冬と烏龍茶の調養茶
材料:
・麦門冬(ばくもんどう) 3〜5g
・五味子 3粒
・烏龍茶 2g
・黄耆(おうぎ) 2g
・水 300ml(お好みで)
作り方:
麦門冬と五味子を10分煮出し、火を止めて烏龍茶を加え、5分ほど蒸らします。
おすすめの時間帯:
午後16:00~18:00(申~酉の刻/膀胱経〜腎経が働く時間)
おすすめの方:
夏に汗をかきやすい、動悸、息切れ、疲労感が強い方
おすすめポイント:
夕方は陰の気が高まり、“収めて補う”には最適な時間帯。 このブレンドは汗を抑えつつ潤いを補い、心を落ち着け、日中の疲れをやさしく癒してくれます。 体力が消耗して虚弱を感じるときのリカバリードリンクとしておすすめです。
結びに
中医学では、一日を四つの時間帯に分け、それぞれに合った「心の整え方」があるとされています。
朝は陽気を高め、午前は熱を冷まし、午後は気分をととのえ、夕方は潤いと気を補う時間です。
このリズムに合わせて、苦味のある飲み物を体質や時間帯に応じて取り入れることで、ただ熱を冷ますだけでなく、心を養い、内臓全体の調和も促してくれます。季節の揺らぎが出やすい夏も、穏やかに過ごせるでしょう。