ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は6月11日、太陽探査機「ソーラー・オービター(Solar Orbiter)」が撮影した太陽の南極の画像を公開しました。これは人類が初めて目にした太陽の南極の姿であり、太陽研究の分野における新たな時代の幕開けを意味しています。
ESAの発表によると、ソーラー・オービターはこれまで軌道の変更を繰り返し試みてきましたが、今回は太陽の極域を観察できる傾斜軌道に移行することに成功し、初めて黄道面(ecliptic plane)の外側から太陽の両極を撮影できるようになりました。この成果は、太陽の磁場や活動周期、宇宙天気の仕組みに対する人類の理解を変えると期待されています。
これまで人々が目にしてきた太陽の画像はすべて、太陽の赤道付近から撮影されたものでした。これは、地球をはじめとする惑星や宇宙船が、太陽の公転軌道面である黄道面上を周回しているためです。しかし、今回ソーラー・オービターがその軌道を傾けたことで、これまでとは異なる角度から太陽を観測できるようになりました。
ESAが公開した太陽南極の画像は、2025年3月23日に撮影されたものです。このときソーラー・オービターは、太陽の赤道より17度下の角度から太陽を観測しており、南極を直接見ることができました。今後、探査機の軌道をさらに傾けることで、より詳細な観測が期待されています。
ESAの科学ディレクターであるキャロル・マンデル(Carole Mundell)氏は、「本日、私たちは人類として初めて太陽の極域を観測することに成功しました。太陽は私たちに最も近い恒星であり、生命の源であると同時に、現代の宇宙や地上の電力システムにとって潜在的な脅威にもなり得ます。そのため、私たちは太陽の働きを理解し、その振る舞いを予測できるようにならなければなりません」と語りました。
さらに彼女は、「ソーラー・オービターによるこの新たな視点は、太陽研究の新時代の到来を象徴しています」と述べました。
ソーラー・オービターには、可視光で太陽を撮影して太陽表面の磁場をマッピングする偏光測定・日震撮像装置(PHI)、紫外線で太陽を撮影してコロナを観測する極端紫外線撮像装置(EUI)、太陽表面の異なる温度の荷電ガスが発する光を捉え、太陽大気の層を明らかにするコロナ環境スペクトル撮像装置(SPICE)など、10種類の科学観測装置が搭載されており、さまざまな方法で太陽を観測しています。
これら三つの装置による補完的な観測結果を比較・解析することで、科学者たちは太陽表面の物質がどのように動いているのかを解明することができます。これにより、金星や土星の極域に見られる「極渦(きょくうず)」のような、予想外の発見がもたらされる可能性もあります。
今回の観測における最初の大きな発見の一つは、太陽の南極の磁場が現在、非常に乱れた「混沌」とした状態にあるということでした。PHIによる観測データからは、太陽の南極にN極とS極の両方の磁極が存在していることが明らかになりました。
これはまれな状態であり、約11年周期で変動する太陽活動のサイクルが、ちょうど最も活発な「極大期」に入っていることと関係しています。太陽の磁場は極大期に反転し、その後は両極が再び単一の極性を形成していきます。5〜6年後には、太陽は活動極小期に入り、磁場が最も整った状態となり、活動レベルも最も落ち着くとされています。今回の発見は、この磁場反転がなぜ起こるのかを解明し、より正確な予測につながる可能性があります。
PHIチームの責任者であり、ドイツ・マックス・プランク太陽系研究所のサミ・ソランキ(Sami Solanki)氏は、「科学者たちは、この現象がなぜ起こるのかをまだ完全には解明できていません。ソーラー・オービターがこのタイミングで高緯度地域に到達し、今までになかった視点からその全貌を追跡できるのは、まさに絶好のチャンスです」と語りました。
(翻訳編集 正道勇)
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