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夏の「赤い食材」で心をととのえる(第3回:小豆編)

湿気を払って胃腸と心をいたわる——夏に頼れる「あずき」ケア

盛夏の酷暑では、最も起こりやすいのは食欲不振、疲労によるむくみ、夜の寝つきの悪さです。熱を取り暑さをしのぐつもりで冷たい瓜系フルーツや飲み物をむやみに取ると、かえって脾胃を傷め、根本を損ない、湿気がさらにこもります。

真の暑さ対策は、まず湿気を取り去って脾を健やかにし、気の巡りを良くし、心火を鎮めることです。このとき、小豆を常備すると良いでしょう。小豆は熱を清めながらも冷えすぎず、脾を健やかにし湿を取り、これひとつで心脾を調え、暑気を払っても元気を損ないません。

 

なぜ夏に「小豆」を食べるのか?

小豆には二つの大きな特徴があります。一つは湿を取り、利尿作用を促しむくみや身体の重だるさを和らげることです。湿気が去れば、湿に苦しめられていた脾胃は自然に軽くなり、機能が回復するため、脾を健やかにし気を整え、食欲不振や腹部膨満、倦怠感などを改善します。同時に中医学では小豆は「色赤は心に入り、性はやや寒」とされます。赤は五行で火に属し、心も火に属するため、心に入り、心を清め穏やかにし、夏に見られるイライラ、動悸、浅い眠りなどの不快を軽減します。

現代栄養学でも、小豆はカリウム、鉄、ビタミンB群、食物繊維が豊富で、利尿、補血、抗酸化、血圧調整、疲労回復に役立ち、夏の穏やかな暑さ対策となる食材であることがわかっています。

小豆はカリウム、鉄、ビタミンB群、食物繊維が豊富(Shutterstock)

 

心と胃腸をまとめて整える

五行では、心は火に属し、脾は土に属します。両者は火が土を生む関係であり、母子にたとえられます。心が強ければ消化機能が高まり、健脾作用が生じます。これは心という母が脾という子を養う働きです。反対に脾が健やかで食欲と消化が良好であれば、心に十分な気血を供給できます。いわば「子が栄えれば母も栄える」というように、心は気血に養われ、精神が安定します。

小豆は、この心と脾という母子を結ぶやわらかな架け橋です。余分な水分を排出し、こもった熱を鎮めることで心神を落ち着かせ、同時にこの母子をやさしく守ってくれます。

 

小豆で簡単に作れるスープ3選

❶ 小豆とハトムギのスープ

—— 湿を取り脾を整え、食欲不振・むくみ・軟便体質に

材料:小豆30 g、ハトムギ30 g(脾が冷えやすい方は乾燥ショウガ薄切り2枚を追加)

作り方:材料を洗ってから冷蔵庫で8時間浸水し、そのまま浸し水ごと柔らかくなるまで煮ます。豆も煮汁も一緒に、温かい状態で召し上がってください。浸し水には皮の有効成分が溶け出しているので捨てないようにします。

効能:体の余分な水分を外に出して、むくみをとります。さらに、胃腸の働きを助けて、体にたまった水分や重だるさの原因を取り除きます。

 

❷ 小豆・レンコン・ナツメのスープ

—— 心を養い安神し、イライラや不眠に

材料:小豆30 g、レンコン50 g、ナツメ(種を除く)3個

作り方:スライスしたレンコンを小豆・ナツメと一緒に30〜40分煮ます。まずはスープを飲みますが、具も一緒に食べても構いません。蓮の実があれば、事前に水に浸してレンコンの代わりに使うとさらに効果的です。

効能:心を落ち着かせ、体の乾燥をうるおします。さらに、元気を補い、気持ちを安定させます。

 

❸ 小豆・山芋・キビのお粥

—— 脾を補い心を養い、疲労・動悸・胃弱に

材料:小豆20 g、山芋スライス20 g、キビ50 g

作り方:小豆がほぼ煮えたら山芋とキビを加え、粥状になるまで煮ます。朝晩どちらで食べてもかまいません。

効能:元気を補い、胃腸の働きを良くします。心を落ち着かせ、胃をやさしくいたわります。

注意:

小豆は薬効が穏やかですが、やや体を冷やす性質があります。そのため、体質が冷えやすい方や、陽気が不足している方、また下痢をしやすい方は、乾燥したショウガや陳皮など温かい性質の食材と一緒にお使いいただくのがおすすめです。

また、甘いものがお好きな方は、調味の際に砂糖を入れすぎないようご注意ください。「甘すぎるものは脾を弱めやすい」とされています。

 

ひとり暮らしの方におすすめ:コンビニを活用した食養生

日本では、忙しいシングルの会社員の方が多く、自炊の時間を取るのが難しいことも少なくありません。ですが、小豆の「心を養い、湿を取り除く」働きは、コンビニやスーパーでも気軽に取り入れることができます。

朝食には、赤飯のおにぎりやあんパン、大福などを選べば、脾を元気にし、気を補って、元気な一日をスタートできます。

昼食には、豆類のサラダや、かぼちゃと小豆の煮物が入ったお弁当がおすすめです。水分代謝を促し、心を養い、気力の回復に役立ちます。

夕食には、温かいおしるこを一杯。気持ちを落ち着け、安眠をサポートし、一日の湿気やストレスをやさしくリセットしてくれます。

料理をしなくても、1日3回の「食養生」はコンビニやスーパーの中にしっかりとあります。

あんぱんでお手軽に食養生(Shutterstock)

 

結びに:夏の心を養うのは、冷たさより“巡り”

日本の夏は湿気が多く、まるで蒸し風呂のよう。イライラ、だるさ、眠れない……その原因は「心」と「脾(消化機能)」の不調によることが多いのです。

本当に大切なのは、気血をめぐらせ、湿気を追い出し、心の火(イライラ)を落ち着かせること。

一杯の「小豆スープ」は、冷たくもなく、熱すぎることもなく、だけどやさしく湿気によるイライラを追い払い、澄んだ心を取り戻してくれます。

これこそが中医学が自然から学んだ「心を養う」知恵。赤い穀物が、私たちにそっと教えてくれます。夏を乗り切る力は、身近な伝統食の中にこそあるのだと。

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