初秋の不調に――宮崎「冷や汁」で食欲回復と養生を
初秋は火・燥・湿の三つの気が同時に動く季節
秋は五行で「金」に属し、金は乾燥(燥)を司ります。肺もまた金に属するため、この時期は肺が乾燥して潤いを失い、機能が低下し、中医学では「秋は養肺を第一」としてきました。
とくに初秋は暑さがまだ残り、そこに秋の乾燥が重なるため、「燥熱が肺を傷める」状態になりやすく、咳や胸のつかえ、不眠などが起こりやすいのです。
また、7月22日から9月22日頃までは、地球の五行の運行で「土の気」が強まる季節になり、土は湿気を生み、朝晩に霧が出やすいのもその特徴です。人体では脾胃が土にあたり、この季節は湿気と暑さがからみ合って脾胃の働きを妨げやすく、食欲不振・消化不良・だるさ・肝気の滞りといった不調が出やすくなります。
この時期を健やかに過ごすには、湿気を払い脾胃を健やかにしつつ、肺を潤して熱を鎮めることが大切です。そうすることで臓腑の気が調和し、体は安定して秋を迎えることができます。
宮崎の「冷や汁」―初秋にぴったりの養生法
九州南部・宮崎県は、夏から秋への移り変わりがとくに蒸し暑く、体がだるくなりがちな土地柄です。そんな気候のなかで育まれたのが、地元に豊富な魚、胡麻、きゅうり、豆腐を活かした「冷や汁」。
焼いた魚と胡麻をすり鉢で丁寧にすりつぶし、味噌と合わせて香ばしいペーストをつくり、冷たい出汁でのばします。そこにきゅうりや豆腐、大葉を加え、ご飯や麺にかけていただく宮崎ならではの伝統料理です。
江戸時代には、武士たちが炎天下での農作業や行軍の合間に、体力と水分を補う滋養食としても親しまれていたと伝えられています。清涼感がありながら栄養豊富で、湿気を祓い、脾胃を養い、肺を潤すことができる、まさに初秋の養生食にぴったりといえます。
甘酒を加えた養生アレンジレシピ(2人分)
材料
- 青魚(さば・あじなど) …100g(焼いて皮と骨を取り除く)
- 白ごま …大さじ3(香ばしく炒る)
- 味噌 …大さじ2
- 無糖の甘酒 …100ml(潤肺・健脾・栄養補給に。氷水の一部を置き換える)
- 冷水 …200ml(胃腸が弱い人は常温水で代用)
- きゅうり …1本(薄切り)
- 絹ごし豆腐 …150g(一口大に切る)
- 大葉の千切り または 小ねぎ …適量
- 炊きたてご飯 …2杯(または麺でも可)
作り方
- 焼いた魚と炒ったごまをすり鉢に入れ、なめらかになるまでよくすりつぶす。
- 味噌を加えてさらにすり合わせ、甘酒と冷水を少しずつ加えながら、香り豊かでひんやりとしたつゆをつくる。
- きゅうりと豆腐を加えて軽く混ぜる。
- ご飯にたっぷりとかけ、仕上げに大葉や小ねぎを散らせば完成。
養生ポイント
- 魚:良質なタンパク質で脾胃を助け、体力を回復。
- 胡麻:肺を潤し、肌を養う。
- 甘酒:やさしく気を補い、寒さを和らげる。
- きゅうり:清熱・利水作用で体の余分な熱と湿を取り除く。
- 豆腐:脾を健やかにし、潤いを与えて乾燥を防ぐ。
- 大葉:気の巡りを整え、湿を祓って食欲を高める。
※胃腸が冷えやすい方は、生姜を少し加えて調和させるのがおすすめです。お腹の冷えや腹痛、下痢を予防してくれます。
このレシピは、宮崎冷や汁の清涼感と食欲をそそる特色をそのままに、中医学で重視される「初秋の潤肺・祛湿」という養生の考え方も取り入れています。まさに、自然のめぐりと土地の食文化が響き合う好例といえるでしょう。