【ノンフィクション】ナンシーのカルテ(3)

【大紀元日本8月20日】「私の魂が手術室で、自分の体にメスが入り、体の一部が切りとられているのを見たとき、私が感じたのは肉体的な苦しみよりも精的な苦しみでした。神が私に与えてくれた命は、健康でエネルギーに満ち溢れていました。でも、私はこの命を大切にしませんでした。まるで単なる車のように扱って、あちこちぶつけて、傷だらけにしてしまいました。医師は神の指示に従って、私に罰を与えたのでしょう...。」

「結局、58年間私の体の一部だった両方の乳房がなくなりました。その時初めて、私は女性の象徴であるこの一部を神に返したことに気づきました。私はあまりにも強情でした。昔は、男性と同じようになりたいと思ったこともありましたが、今男性のような平らな胸になってみると、突然心のバランスをなくし、空しさを覚えたのです...」とナンシーが語った。

ナンシーは深いため息をついた。

ナンシーは乳房の切除という苦しみを味わったが、本当の苦難は化学療法を始めてから経験することになった。化学療法の第一週目、ナンシーの頭髪はほとんど抜けてしまった。

ナンシーが、自分の姿を鏡に映すと、祖父の姿とそっくりだった。禿げた頭、穏やかでない不親切な目つきをする老人の顔だった。ナンシーは自分の姿にショックを受け、同時に、彼女に起きたすべての苦難は、祖先から残された「業」によるものかも知れないと考えた。ナンシーは祖父についてよく知らなかったが、彼が軍人だったことと、沢山の人を殺したことは聞いていた。ナンシーは、冥界で自分が網にかかった魚になり、水面に引き上げられるような気持ちだった。

本当に化学療法は効果があると、自信を持って言える医師はいない。しかし、ナンシーが化学療法を受けることを止める者もいない。何故なら、医師たちは、化学療法が患者に死ぬよりもつらい苦痛を与えると知っていても、これよりよい治療法はないからだ。

化学療法は薬物を人体に注射し、その薬物ががん細胞を消滅させ、同時に健康な細胞をも消滅してしまう。化学療法を受けた後、ナンシーの血液の赤血球白血球は最低の数値まで下がる。数日後、再び数値が上がってきたら、化学療法を繰り返す。ナンシーはこのように化学療法を繰り返し、健康状態は最悪となり、ほとんど死の淵をさまようところまで来ていた。

ナンシーはすぐに吐いてしまうので何も食べられず、立つと強烈な目眩に襲われる。化学療法を止めれば、がん細胞が息を吹き返し増殖してしまうため、止めるわけにはいかない。しかし、彼女がこれ以上、化学療法を続けるのはとても危険だった。

ナンシーは今でも最大の努力でがんと戦っている。化学療法はまだ進行中で、それを乗り越えれば、次は放射線療法やレーザー療法となる。それは、ナンシーにとって生きるための新たな戦いとなるだろう。もし、ナンシーがレーザー療法に耐えることができ、それに成功したとして、彼女は平穏な余生を過ごせるだろうか?彼女の医師によると、すべての治療を乗り越えても、生存の確率は30%しかないという。

(つづく)

(「新紀元週刊」より転載)