陰陽理論から見る糖尿病

中国伝統医学(中医学)の基礎となる考え方のひとつとして、陰陽理論がある。陰陽理論によると、この世に存在するすべてのものは、対立する性質を持つ二つの要素から成り立っており、同時にこの二つの要素は相互に依存して存在していると考えられている。例えば、男性と女性、夏と冬、昼と夜などで、それは人間の身体にも当てはまる。中医学では、人体の背面は陰で前面は陽、下半身は陰で上半身は陽、内臓の中で五臓は陰で六腑は陽としており、陰陽相互のバランスが整ってはじめて身体は健康になり、それが崩れれば病気になると考えられている。

なお、中医学の臓腑理論に「三焦」という概念がある。「三焦」とは、飲食物の代謝に関わる三つの場所という意味で、上焦、中焦、下焦の三つに分けられる。上焦は、気を取り入れ、邪気を排出する働きがあり、心や肺が司っているところである。中焦とは、食べ物を摂りいれ、血を生成する働きがあり、胃や脾が司っているところである。下焦は、代謝産物を排出する働きがあり、肝と腎が司っているところとされている。「三焦」という概念は糖尿病の病因と病理の解釈によく使われている。

糖尿病の患者には、喉が渇き、多飲多食、疲れやすい、痩せるなどの症状が見られる。中医学では、糖尿病を「消渇」と呼び、これらの症状は「陰」が欠乏している現象だと見られている。「陰」が不足すると、「陽」の亢進によって生じた熱が肺、胃、腎に集まり、さらに「陰」を消耗してしまう。この熱が「上焦」に集まると、「津液」を蒸発してしまうので、喉の渇きをおぼえ、多飲することになる。また、この熱が「中焦」に集まると、食欲亢進により、多食などの症状が現れ、いくら食べても満腹感が得られない。この熱が「下焦」に集まると、腎の陰が消耗されて、腎の機能低下により、頻尿、多尿が現れ、体内の栄養分が尿とともに体外に排出されるので、身体が痩せてしまう。

中医学の考え方では、アルコールや甘い食べ物、脂っこい食事を過剰に摂る人や、生活が不規則で、あまり運動しない人は「消渇」に罹り易い。病が慢性化すると、気力が落ちて、無気力、虚弱、顔色がよくないなどの症状が現れて、血行も悪くなる。

中医学の理論では、患者の症状を診るときに、身体の陰陽が調和していない場所、過不足の部分などを特定し、その人の全身状態を考慮した上で診断を行なう。診断に必要な情報は、目で見る患者の体に現れた形と色、耳で聞く患者が発する声、鼻で嗅ぐ患者の体が発する匂い、手で患者の体を触った感覚、さらに問診から得た情報などである。特に、舌の形と色、顔色や表情、口臭や体臭、脈の様子は、重要視されている。

糖尿病と診断されたら、陰陽のバランスを調節する漢方薬が処方される以外に、普段の生活様式、食事習慣などが指導される。食事の面では、栄養素よりも、その食物が持つ陰陽の特質が重要視される。たけのこやほうれん草は身体を冷やす働きがあり、渇きを抑える効果がある。セロリは腎臓の毒素を排出し、熱を冷まし、冬瓜は、血糖を下げる働きがあり、それらの野菜を積極的に摂るとよい。

(翻訳/編集・田中)