アングル:新型ウイルス検査「1日3000人」、対象拡大に限界か

中川泉

[東京 19日 ロイター] – 政府は新型コロナウイルスへの感染の有無を調べるPCR検査について、18日から1日3000件以上の検査が可能になったとしているが、検査を依頼された大学病院や民間検査会社からは、早急な対応は難しいとの声も聞かれる。国民が広くPCR検査で感染の有無を確認できるような状況には程遠いとの見方が示されるなか、行政側からも、感染が蔓延した場合、無限に対象を広げる必要はないという考え方もある、との声も聞かれる

「PCR検査拡大の依頼は今月12日に厚生労働省から来たが、1日の検査件数は確定的には答えられない」──連結子会社などを通じ臨床検査・試薬を展開する、みらかホールディングス<4544.T>では、他の検査も通常業務として行っており、その合間にできる分を行う方針だ。

みらかグループは感染リスクが低いとされる検体についての検査を依頼されたが、特に件数の割り当てを受けたわけではないという。検査ラインを新設するわけではなく、既存の検査設備での日々の業務との兼ね合いで検査件数も変動するため、確定的な件数を明示できないとしている。

加藤勝信厚生労働相は、国立感染症研究所で400件、全国の検疫所で580件、地方衛生研究所で1800件、さらに18日からは民間の検査所5か所で900件、大学で150件の、あわせて最大で1日あたり3830件の検査が可能になったと発表している。

しかし、同グループのように通常業務でウィルス検査を実施している企業でさえ、追加検査能力を確定できない状況にあり、実験ではなく業務として新たにウィルス検査を依頼された大学病院では対応しきれないケースも想定される。

山梨大学医学部付属病院では、PCR検査の依頼は受けており、準備はしたいと考えているが、方針は何も決まっていない状況だという。このため、検査開始時期も明示できないとしている。

一方、首都圏の国立大学法人附属病院では、今週から検査を開始する予定だ。しかし検査を手掛ける医師の1人は「おそらく多くの大学病院では対応が難しいだろう」との見方を示す。新型コロナウィルスのような危険ウィルスの取り扱いには様々な手順の整備と施設条件をクリアする必要があるためだ。

痰や唾液などの生の検体の輸送は誰が行うのか、密室で、ある程度の広さを確保した施設の用意、外気への漏れを防ぐ大量の喚起フィルターの準備、検体後の処理をどうするか、といったマニュアルの準備が必要となる。

こうした状況に関して、厚生労働省では「3000件以上の検査能力は確保している」(健康局結核感染症課)と認識しているが、「各検査機関や大学病院での検査がどの程度可能かは実は聞いてもよくわからない。検体がきたら優先的な検査を期待するしかない」(同課)という。

感染がまん延してきた場合の検査体制については「治療薬のないウィルスだけに、隔離しか方法がない。検査結果が分かってもあまり意味がなく、誰でも無限に検査対象を広げるわけではない、という考え方もある」(同課)としている。

インフルエンザのように、全国5千か所程度の病院に絞ったり、地域を限定して検査を実施する方法もあるが、同省では国民の不安を踏まえれば、そうした一部の医療機関に人が殺到する状況も考えられ、現実的な対応ではないとしている。

前述の大学病院医師も「感染が広がり、不安に思う国民が誰でもPCR検査を受けられるような体制ではない」と指摘する。

簡易キットによる検査を全国のクリニックで行う方法もあるが、そうしたキットの開発に着手している東京のデンカ生研では、まだ今回のウィルス検体の入手ができていない状況で、開発時期のめどはたっていないという。キットが完成すれば、15分程度で感染の有無が判明するとしているが、それでも、確定診断のためにはPCR検査が必要だという。

 

 

(編集:石田仁志)

関連記事
4月29日、テキサス大学オースティン校にテントを張っていた親パレスチナ派デモ参加者を、警察当局が逮捕し始めた。
米国とフィリピンが、南シナ海で初めて肩を並べて行った共同軍事演習の最中、4月30日に中共の海警船が、同海域でフィリピンの船舶に再度危険な干渉を行(おこな)った。中共は以前から、南シナ海でフィリピンの船舶に対して干渉を繰り返し、国際社会から批判を受けている。
今年11月に迫る米大統領選で勝利した場合、トランプ氏は数百万人の不法移民の強制送還や中国製品の関税強化、議会議事堂事件で起訴された人々の恩赦を行うと米誌タイムのインタビューで語った。
米国連邦大法院で、ドナルド・トランプ前大統領に対して一定レベルの免責特権は適用可能かもしれないという前向きな解釈が出た。これは、任期中に適用された容疑に関して「絶対的な免責特権」を要求していたトランプ側の主張に対して懐疑的だった従来の立場から少し緩和されたものだ。
北米全土の大学生の間で、ハマスへの支持とパレスチナ人の幸福への懸念が急激に高まっている。ほとんどの学生にとって、それは地球の裏側にいる人々と密接なつながりがあるからではない。学業をなげうってまで過激主義に傾倒するのはなぜだろうか。