【紀元曙光】2020年12月13日

美人計。美女を送り込み、敵将を籠絡させて自軍の勝利を得る。
▼中国の兵法書『兵法三十六計』のなかにある戦法の一つである。なにしろ費用対効果がいい。語弊を恐れずにいえば、美女一人を費やすだけで、ほとんど元手がかからず、相手から得る戦果が甚大なのだ。
▼敵のほうが強大で、自軍が負けそうな戦局のときに使う戦法である。このような場合に、自国の領土や財宝を相手に献上すると、一時は攻撃の手を緩めるが、必ず後日それ以上の要求を突き付けてくる。ゆえに古来より、この奇手が使われてきたが、実際に成功するには、よほどレベルの高い絶世の美女であるとともに、密命を貫徹できる胆力が求められる。
▼時代は後漢の末。横暴を極める董卓(とうたく)の部下に、真の憂国の士である王充(おうじゅう)がいた。王充は、自分の養女である16歳の貂蝉(ちょうせん)をつかって、董卓の誅殺を決意する。貂蝉は、董卓の養子で豪傑の呂布(りょふ)をその美貌で虜にする一方、董卓の耳元で「乱暴者の呂布のところへ行きたくない」とささやく。
▼貂蝉をはさんで、両者は仲違いする。騙された呂布は、義父の董卓を殺害。大いなる報国の信念をもつ貂蝉の、見事な美人計であった。もっとも史実ではなく、明代の小説『三国志演義』の一場面であるが、日本の仮名手本忠臣蔵のように、史実を超えて人々に親しまれ、定着した物語になっている。
▼前置きが長くなった。要するに、貂蝉に比べて現代中国のハニー・トラップなんぞは、騙す女も、騙される男も、ともに頭のレベルが低すぎることを言っている。