60歳を超えていて、常に疲れを感じ、手足がピリピリし、なかなか治らない風邪に悩まされているとすれば、年齢のせいだと考えてしまいがちです。しかし、本当の原因は、体内にうまく吸収できていない可能性のあるビタミン、つまりビタミンB12であることも十分に考えられます。
ビタミンB12欠乏症の症状は通常の老化の兆候に似ているため、見過ごされやすい傾向があります。現在、新たな非臨床研究では、その理由として考えられる、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアを正常に機能させるうえでのビタミンB12の役割が調べられています。
ビタミンB12と老化する細胞
ミトコンドリアは、細胞内でエネルギーを生み出す小さな発電所として、体内で重要な役割を果たしています。ミトコンドリア機能の低下は老化を特徴づける現象の一つであり、ビタミンB12はエネルギー産生とミトコンドリアの健康の両方に直接関わっています。最近行われた2件の非臨床研究は、この関係を説明する手がかりとなっています。
『ジャーナル・オブ・ニュートリション』に掲載された最初の研究では、研究者らがマウスの体内で利用できるビタミンB12の量を減らし、エネルギー需要の高い骨格筋を調べました。その結果、ミトコンドリアの働きは非効率になり、産生されるエネルギー量が減少したほか、ビタミンB12が少ない場合にはミトコンドリアDNAに損傷の兆候が見られました。
両研究の共著者であり、生化学の博士号を持つコーネル大学准教授のマーサ・フィールド氏によると、これまでのマウス研究でも、ビタミンB12欠乏症とミトコンドリアDNAの損傷およびエネルギー産生の低下との関連がすでに示されていました。このことから同氏の研究チームは、筋肉、心臓、脳など、ミトコンドリアに大きく依存する組織をさらに詳しく調べることにしました。
筋肉との関係は、高齢者にとって特に重要です。年齢を重ねると、吸収能力の低下などによってビタミンB12欠乏症が増える一方、高齢者はサルコペニア(筋肉量と筋力が低下する状態)のリスクも高まるからです。サルコペニアは、自立した生活を送る能力や生活の質を損ないます。
「私たちの研究では、ビタミンB12の欠乏または不足が、同じ影響を受けやすい人々の同じ種類の組織に対して、いわば二重の打撃になることを示したと言えます」と、フィールド氏はエポックタイムズに語りました。
『ジェロサイエンス』に掲載された2件目の研究では、ビタミンB12の補給によって損傷を回復させられるかどうかが調べられました。研究著者で、細胞生物学、発生生物学、統合生物学を専門とする准教授のアンナ・サラッカー=マーサー氏とその研究チームは、高齢のマウスにビタミンB12を補給し、ミトコンドリア機能を回復させられるかどうかを調べました。
「ビタミンB12の吸収能力が加齢に伴って低下すること、そしてミトコンドリア機能障害が老化を特徴づける現象であることは、以前から分かっていました」と、サラッカー=マーサー氏はエポックタイムズに電子メールで語りました。「高齢者におけるビタミンB12の利用可能量とミトコンドリアとの間に関連があるのなら、ビタミンB12を補給することで機能低下を回復させられる可能性があると考えました。私たちが観察した結果が非常に明確だったことには驚きました」
フィールド氏は次のように述べています。「注目すべき発見は、マウスではビタミンB12の状態が改善すると、筋肉のミトコンドリア機能も向上していたことです。これは、ビタミンB12が欠乏症の予防だけでなく、健康的な老化の維持に役立つ細胞のエネルギー産生機構を支えるうえでも、役割を果たす可能性があることを示しています」
両氏は、これらが動物を対象とした研究であり、人間に対する効果を証明するものではないと指摘しています。ビタミンB12の補給が、高齢者のミトコンドリア機能や筋肉の健康を実際に改善するかどうかを確認するには、人を対象としたランダム化比較試験が必要です。サラッカー=マーサー氏の研究チームは現在、この試験の実施に向けて取り組んでいます。
ビタミンB12欠乏症が見過ごされやすい理由
コバラミンとも呼ばれるビタミンB12は、微生物によって作られます。それが動物に取り込まれ、食物連鎖を通じて人間の体内に届くため、天然の供給源として最も優れているのは肉、卵、乳製品です。人間の体内では作ることができないため、食品、栄養強化食品、サプリメントから摂取しなければなりません。
ビタミンB12は肝臓に蓄えられ、必要量の数年分を保持できます。欠乏症が徐々に進行し、長期間気づかれないことがあるのは、これも理由の一つです。
十分な量を摂取できるかどうかは、食事に含まれるビタミンB12の量だけでなく、それを体内で分解し、吸収できるかどうかにも左右されます。
栄養素を効率よく吸収する能力は、加齢とともに低下する傾向があります。食品中のビタミンB12を分離し、体内で吸収・利用できる状態にするために必要な胃酸の量も、年齢とともに減少します。また、薬によって吸収が妨げられることもあります。特に、2型糖尿病の治療に使われるメトホルミンや、胃酸を減らすために使われるプロトンポンプ阻害薬が該当します。どちらもビタミンB12の吸収を妨げる可能性があり、高齢者に広く使用されています。
「過去100年間で、ビタミンB12は、命に関わる病気を防ぐ必須ビタミンとして発見された段階から、主に栄養素を吸収できなくなることによって、高齢者ほどビタミンB12欠乏症になるリスクが高いと認識される段階へと進んできました」と、生化学の博士号を持ち、ビタミンB12研究を専門とするケント大学教授のマーティン・ウォーレン氏は、電子メールでエポック・タイムズに語りました。
欠乏症は珍しくありません
ビタミンB12欠乏症は世界中で一般的に見られます。特に、栄養面や社会経済面で困難を抱える人々や、植物性食品を中心とした食生活を送る人々の間で多く見られます。
「高齢者の最大5人に1人がビタミンB12欠乏症になることを考えれば、誰もが知っておくべき問題です」とウォーレン氏は述べました。
幸いなことに、必要なビタミンB12はごく微量で、成人の場合は1日約2.4μgです。妊娠中の女性は2.6μg、授乳中の女性は2.8μgへと必要量が増えます。これを身近なものに置き換えると、砂粒1個の重さは約1万1,000μgです。つまり、成人が1日に必要とするビタミンB12の量は、砂粒1個の約4,500分の1に相当します。
実際の食生活では、卵4~5個、ツナ缶約85g、またはイワシ1尾を食べれば、1日に必要なビタミンB12を摂取できます。非常に高濃度の食品を選ぶなら、蒸した二枚貝1個、または牛レバーひと口分で必要量を満たせます。動物性食品以外の供給源を探している場合は、栄養強化されたニュートリショナルイースト(食用酵母)大さじ2杯で、1日に必要なビタミンB12の実に580%を摂取できます。そのため、少量振りかけるだけで十分です。
注意すべき症状
ウォーレン氏によると、ビタミンB12の欠乏や不足による症状の多くは、ほかの微量栄養素の欠乏や老化による症状と似ています。
症状はゆっくりと現れることがあるため、原因が分かりにくくなり、多くの人が通常の老化現象だと考えてしまう可能性があります。ビタミンB12が欠乏すると、身体的、神経学的、心理的な症状が生じることがあります。
ビタミンB12は、神経を包んで保護する髄鞘を作るために不可欠です。ビタミンB12が不足すると髄鞘が損なわれ、神経線維が露出することがあり、手足のしびれやピリピリとした感覚につながります。さらに進行すると脊髄の変性を引き起こし、平衡感覚の喪失、協調運動の障害、歩行困難につながる可能性もあります。この状態は、亜急性連合性脊髄変性症と呼ばれます。
「疲労感やだるさがおそらく最も一般的な症状です。ブレインフォグや認知機能の変化、例えば集中力や頭の冴えの低下なども、かなりよく見られます。そのほか、ピリピリ、チクチクする感覚、舌の感覚がぼんやりする症状、協調運動や歩行の問題、筋力低下、抑うつ、気分の変化などがあります」と同氏は付け加えました。
このほかに考えられる症状には、疲労や極度の消耗感、息切れ、平衡感覚の問題、記憶力の低下、視覚障害、体重減少などがあります。こうした症状は、ビタミンB12欠乏症以外にもさまざまな原因で起こる可能性があります。そのため、これらの症状がある場合は、原因を明らかにするために医療従事者へ相談してください。
ビタミンB12濃度の検査
体内のビタミンB12の状態は一般的な血液検査で調べられますが、検査には限界があります。
「ビタミンB12欠乏症を調べる一般的な血液検査は、それほど正確ではありません。同じ血液検体を5つの異なる検査機関へ送ると、5通りの異なる結果が返ってくることもあります」とウォーレン氏は述べました。
より正確な検査方法も存在します。これは、ビタミンB12の欠乏によって血液中に蓄積する代謝産物を調べるものですが、依然として費用が高いと同氏は付け加えました。また、「欠乏」と「不足」を区別する、より明確な臨床上の定義が今も必要だと指摘しています。
ビタミンB12濃度が低い場合の反応にも、大きな個人差があります。
「ビタミンB12濃度が同じ2人でも、1人は不足にとどまり、もう1人は欠乏症になる可能性があります」と同氏は述べました。「ビタミンB12濃度が比較的低くても問題がないように見える人がいる一方で、比較的高い濃度であっても欠乏症の症状が見られる人もいます。これは遺伝的背景を反映している可能性がありますが、私たちがまだ把握していない何らかの要因が関係している可能性もあります」
単なる加齢の一部だと思っていた症状がある場合は、ビタミンB12濃度の検査を検討してもよいでしょう。食生活を変える、現在服用している薬を見直す、サプリメントを利用するといった簡単な対策によって、それまで避けられないと思われていた状態が改善し、生活の質が高まる可能性があります。特に年齢を重ねるほど、その可能性は重要になります。
(翻訳編集 井田千景)
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