甘草:肝臓や胃の健康を支える古代の生薬——研究で分かった働きと注意点

考古学者がツタンカーメン王の墓を開けたとき、そこには金や宝石とともに、甘草の根がありました。それから3,000年後の今、科学者たちは、古代の人々がなぜ甘草を墓に納めるにふさわしいと考えたのかを解き明かそうとしています。

甘草(リコリス)は、歴史上最も広く使われてきたハーブの1つで、喉の痛みを和らげ、咳を鎮め、胃の不調を落ち着かせるとして、文化を問わず珍重されてきました。風味づけの素材としても本格的で、砂糖の約50倍の甘さがあります。今日、研究によって、伝統的な使い方の多くが裏付けられるとともに、肝疾患への効果や、口や腸の傷の治りを助ける効果など、新たな可能性もいくつか見えてきています。

あらゆる古代文明で使われた根

甘草の薬用の歴史は、記録に残るハーブの中でも、ほとんど例を見ないほど古くまでさかのぼります。世界最古の叙事詩として知られる『ギルガメシュ叙事詩』にも登場すると、米マサチューセッツ大学アマースト校の民族植物学・民族薬理学の元助教授、ナジム・マメドフ氏はエポックタイムズに語りました。今日も、中東、中央アジア、東アジアの伝統医学で広く使われ続けていると、同氏は付け加えました。

古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、甘草を、脱水や潰瘍に有効な療法だと考えていました。古代エジプト人は、甘草の根を甘い飲み物にし、死者とともに埋葬するほど重んじていました。ツタンカーメンの墓にあったのは、そのためです。

過去50年にわたり薬用植物の論文を発表し、甘草に関するものも複数あるマメドフ氏は、最もよくある伝統的な用途として、咳、気管支ぜんそく、アジソン病、口唇ヘルペス、口内炎、胃痛、潰瘍、湿疹、風邪の治療を挙げました。

甘草は、アダプトゲン(身体的、精神的、環境的なストレスへの対処を体が助けると考えられている物質)にも分類されます。棒状の甘草を噛むことは、歯と歯茎の健康を高めるために広く行われている習慣です。

世界最古の医学体系のうち2つは、甘草を、ささやかな薬ではなく、要となるハーブとして扱っています。

中医学では、甘草はほとんどの処方に配合されます。これは主に、多くの生薬の強い味を打ち消す甘みと、処方内の他の生薬の毒性や刺激を和らげ、互いにより効果的に働くようにする「調和作用」があるためです。

ほとんどの生薬は、特定の臓腑や体の部位に作用すると考えられていますが、甘草は、処方内の他の生薬を、全身にある十二経絡(体の気が巡る経路)のすべてへ導く「引経薬」として、独特の存在です。消化器系と呼吸器系を強め、体の気を補い、熱を冷まし、毒性を減らし、長寿を促します。

アーユルヴェーダでは、甘草はヤシュティマドゥ(「甘い棒」の意)と呼ばれ、若返りの強壮薬(ラサーヤナ)として高く評価されています。甘く、体を冷ます性質があり、伝統的に、胃や喉を和らげ、呼吸器の健康を支え、潰瘍を癒し、うつの治療に用いられてきました。体力、免疫、気分のための全般的な強壮薬としても使われています。
 

効能を支える化学成分

甘草は生理活性化合物が豊富で、科学者は、フラボノイド約300種を含む、およそ400種を特定しています。

おそらく最も有名な生理活性化合物はグリチルリチンで、甘草の甘さ、薬効の多く、そして副作用のほとんどは、この成分によるものです。

甘草を食べると、腸内細菌がグリチルリチンを、関連化合物のグリチルレチン酸に変換します。この変換が、甘草の抗炎症、抗ウイルス、抗酸化、組織保護の作用をもたらします。

しかし、グリチルレチン酸には欠点があります。腎臓の正常な働きと、体内の塩分と水分のバランスを制御するホルモンの働きを妨げ、いわば、本来より多くの塩分と水分を体にためこむよう仕向けてしまいます。その結果、血圧が上がり、カリウム値が下がって、心臓に負担がかかることがあります。

この血圧への副作用があるため、グリチルリチンを取り除いた甘草も販売されており、「デグリチルリチン化甘草(DGL)」と呼ばれます。グリチルリチンを除くと、通常の甘草に伴う高血圧、体液の貯留、カリウムの喪失のリスクがなくなります。

自然療法医で、著者、研究者でもあり、自然薬の専門家でもあるマイケル・T・マーレー氏が、甘草でまず選ぶのはDGLです。

「DGLは、グリチルリチン酸を含まないため、かつては不活性なものとして捨てられていました。ところが、消化性潰瘍の治癒を促す働きは、むしろ強いことが分かったのです」と、同氏はエポックタイムズへのメールで語りました。

「私は長年、DGLを使って消化性潰瘍の多くの症例を、100%の成功率で治療してきました。極めて安全で、副作用も禁忌もありません」

甘草には、ほかにも有益な生理活性化合物が数百種含まれています。主なものは、リクイリチンやリクイリチゲニンなどのフラボノイド、グラブリジンやホルモノネチンなどのイソフラボノイド、リコカルコンAやイソリクイリチゲニンなどのカルコンで、いずれも、強力な抗酸化、抗炎症、抗腫瘍、抗がんの作用を併せ持ちます。
 

現代の研究が示すこと

甘草に関する現代の研究は、とくに呼吸器系と消化器系について、伝統的な評価と一致しています。

肝臓の健康

甘草に含まれるグリチルリチンは、肝臓に強い作用を及ぼします。原発性肝疾患の患者約1,400人を対象にした大規模な無作為化比較試験では、甘草が肝臓の炎症を有意に減らしました。

実験室での研究では、感染した肝細胞のC型肝炎ウイルス量が減り、少量でもウイルスの活動が約半分に抑えられました。グリチルリチンを、C型肝炎の治療薬であるインターフェロンアルファと併用して比較した研究では、相乗効果がみられ、併用すると抗ウイルス作用が高まりました。

消化の健康

現代の研究は、甘草の消化器系への伝統的な使い方、とくに消化性潰瘍や胃酸の逆流への使用と、とくに炎症のある状態での胃の保護について、裏付けています。甘草は、胃の粘膜を刺激して保護粘液の分泌を促し、胃酸とペプシンを抑え、ヘリコバクター・ピロリ菌と闘い、局所の炎症を減らします。

口と喉

甘草は、抗炎症、抗菌、痛みを和らげる作用があるため、喉の痛みの療法としてよく知られています。口腔潰瘍(アフタ性口内炎を含む)に対しても、極めて有効な治療であることが示されてきました。ある系統的レビューでは、アフタ性口内炎、口腔扁平苔癬(自己免疫性の炎症性疾患)、放射線治療による口腔粘膜炎(がん治療の副作用)という3つの異なる口の症状で、薬に比べて痛みが軽減したことが分かりました。アフタ性口内炎に絞った別のレビューでは、甘草が痛み、潰瘍の大きさ、治癒までの時間を改善したことが分かりました。
 

初期段階の知見

前臨床研究では、甘草に抗がん作用もあることが分かっており、動物実験では、抗うつ作用や記憶力を高める作用、認知症やアルツハイマー病などの神経変性疾患への作用も調べられてきました。

安全性:注意が必要な人

通常の甘草であれば、健康な人がたまに使う程度なら、一般に問題はありません。

ただし、高用量の使用や長期の使用は、血圧の上昇、低カリウム、体液の貯留などの有害作用を引き起こすことがあり、不整脈を誘発したり、心臓に余計な負担をかけたりするおそれがあります。

甘草は、利尿薬、副腎皮質ステロイド、ジゴキシン、一部の降圧薬とも相互作用を起こすことがあります。

用量と調製法

食品の材料としての甘草は、安全と考えられています。用量と期間が重要になるのは薬としての使用で、その場合は、製品のグリチルリチンの含有量によって、適切な量が決まります。

マーレー氏は、甘草について書いた論文の中で、適切な用量はグリチルレチン酸の含有量によって決まると説明しました。唯一の例外は消化性潰瘍の治療で、この場合は副作用がないDGLが好まれます。

ほとんどの用途では、副作用のリスクを高めずに有益な作用が得られるよう、血中のグリチルレチン酸の濃度を十分に高めることが目標だと、同氏は述べました。この目的で一般に勧められる甘草の用量は、1日3回、次のとおりです。

粉末の甘草根:1~2g

液体エキス(1:1):2~4mL

乾燥エキス(4:1):250~500mg

唯一の大きな例外は消化性潰瘍で、グリチルリチンを除いた甘草(DGL)は、噛んで使うと最もよく効きます。唾液と混ざるためです。唾液が、胃や腸の粘膜を守り、修復するのに役立つ天然の物質の放出を促すとみられます。このため、DGLカプセルが、噛める錠剤と同じ程度に効くことは示されていません。

甘草の使用に関心があり、持病がある場合や薬を服用している場合は、一人ひとりの状況に応じて用量を決め、調整し、安全に使えているかを確認してくれる、資格のあるハーブ療法士(ハーバリスト)に相談してください。

これほど長く、しかも一貫した「経歴」を持つハーブは、そう多くありません。現代の研究が伝統的な使い方を裏付け、さらに発展させるなか、甘草は、エジプト王の墓から家庭の薬箱まで、身近に置いておく価値のあるハーブであることを証明してきました。

(翻訳編集 日比野真吾)

鍼灸医師であり、過去10年にわたって複数の出版物で健康について幅広く執筆。現在は大紀元の記者として、東洋医学、栄養学、外傷、生活習慣医学を担当。