パーキンソン病にダンスが役立つ理由 歩行・バランスから心の健康まで

パーキンソン病は、人から「動く力」を奪う病気です。ところが、人気のある治療法の一つが、患者にダンスを勧めることなのです。

ニューヨーク・ブルックリンからイギリスまで、さまざまな場所でダンス教室が開かれており、臨床の場でも話題に上ることが増えています。研究でも、ダンスは薬だけでは得られない効果をパーキンソン病の人にもたらすという見方が裏づけられています。

「薬は症状をコントロールします」と、ニューヨーク・ニューロロジー・アソシエイツの運動障害部門長で、神経内科専門医のフィオナ・グプタ医師はエポックタイムズに語りました。「一方で、ダンスは代償的な神経回路(損傷した神経機能を補うために脳が新たに形成する神経ネットワーク)を再構築する助けとなる可能性があります」
 

ダンスが効く理由

ダンスは、多面的な神経リハビリテーションとして提唱されています。

「ダンスは、身体の動き、認知機能への刺激、音楽の処理、リズム、感情への働きかけ、そして社会的な交流を同時に組み合わせています。これは、ランニングマシンで歩くような一般的な運動では得られない特徴です」とグプタ医師は説明します。「こうした複数のシステムへの同時刺激は、パーキンソン病が脳内の複数の神経ネットワークに同時に影響を及ぼすため、とても重要なのです」

ダンスの効果の中心にあるのは音楽の存在です。外部から与えられる聴覚刺激は、パーキンソン病の人の歩行速度や歩幅の改善に役立ちます。音楽は単なるメトロノームよりも効果的で、リズムだけでなく感情への働きかけも同時に行えるからです。

生物学的な観点から見ると、音楽は脳の報酬系におけるドーパミンの働きと関連するポジティブな感情反応を引き起こします。これは、脳内でドーパミンを作る細胞が減少することが特徴であるパーキンソン病において、特に重要な意味を持ちます。

特定のダンスについても詳しく研究が進められています。タンゴはバランス能力や移動能力全般を改善し、さまざまなダンスを組み合わせたプログラムは、歩行中に突然足が動かなくなる「すくみ足(フリージング)」を軽減することが分かっています。これは、この病気の中でも特に生活への影響が大きい症状の一つです。

新しい振り付けを覚えることは、脳の構造的な変化を促すと考えられています。特に、運動の制御を担い、パーキンソン病で最も大きな影響を受ける「大脳基底核(運動を調整する脳の神経ネットワーク)」に変化が生じるようです。

グプタ医師によると、これによって脳は動きを観察し、模倣する方法を学び直し、損傷した神経回路を補う新たな経路を作り出すことができる可能性があります。このような神経保護(神経細胞を守る働き)の領域には、ドーパミン補充薬では到達できません。
 

ダンスフロアで生まれた物語

デビッド・レベンサル氏は、ブルックリンにあるマーク・モリス・ダンス・グループの「Dance for PD(パーキンソン病のためのダンス)」プログラムの創設メンバーであり、指導者の一人です。このプログラムは、研究室で生まれたものではなく、一つの会話から始まりました。

「ある意味では、パーキンソン病のほうが私たちを選んだのです」と、レベンサル氏はエポックタイムズに語りました。

このプログラムは2001年に始まりました。当時、ブルックリン・パーキンソン・グループの創設者であるオリー・ウェストハイマー氏が、マーク・モリス・ダンス・グループに「パーキンソン病の人のための本格的なダンス教室を作りたい」という提案を持ちかけたのです。

ウェストハイマー氏は、ダンサーが持つバランス感覚やリズム感、協調性、動きの順序を組み立てる能力、そして表現力が、医療従事者だけでは補えない形で運動障害のある人々を助けられると考えていました。

「最初のクラスを教えたあと、ダンスと音楽の組み合わせが、たった1時間で参加者の身体面・感情面の体験を大きく変えることを目の当たりにしました」とレベンサル氏は振り返ります。「その変化は本当に劇的でした」
 

動くだけではない価値

パーキンソン病の人たちに、なぜ教室へ通い続けるのかを尋ねると、その答えはすぐに歩行やバランスだけではない話へと広がります。

ある参加者は元海兵隊員で、ニューヨークの第一線で働いてきた訴訟弁護士でした。一見するとダンスに夢中になるような人物には見えませんでしたが、パーキンソン病と診断された後に教室へ通い始め、タップダンスに魅了され、何カ月も練習したソロ演技を披露するまでになりました。

「その時の彼の誇らしげで喜びに満ちた表情は、今でも忘れられません」とレベンサル氏は語ります。

また別の参加者は、体力と自信を得て、自分の家族の結婚式で踊ることができました。それは本人が心から望んでいたことでした。

「こうした出来事は小さなことに思えるかもしれません。しかし、パーキンソン病とともに生きる人にとって、自信や喜び、自分らしく行動する力を取り戻すことは、計り知れないほど大きな意味があります」とレベンサル氏は話します。

パーキンソン病は、運動機能だけでなく、自信や自分らしさ、話す力、人とのつながりにも大きな影響を及ぼします。また、「仮面様顔貌(感情が表情に現れにくくなる症状)」によって、家族や親しい人との関係がぎくしゃくすることがあります。

こうした状況の中で、ダンスは薬では得られないものを与えてくれます。それは、創造性を発揮し、自分自身を表現し、人と心からつながることができる場です。

「私たちは、症状だけを見るのではなく、一人の人間全体を支えるプログラムを作りたいと考えました」と、「ムービング・マインズ」代表で、同団体のパーキンソン病向けダンスプログラム「Finding Flow」の主任ファシリテーター(進行役)を務めるエレイン・ハーベイ氏はエポックタイムズに語りました。

ハーベイ氏によると、その恩恵は介護者や家族にも及びます。

一緒に創造的な時間を過ごすことで、介護する側・される側という関係だけではない、新たな喜びやパートナーシップを取り戻すことができます。病気によって失われがちなそうした時間を、再び共有できるようになるのだと、ハーベイ氏は述べました。

多くの参加者は配偶者やパートナーと一緒に教室へ通っており、共に活動し、つながりを深めることで、さらに大きな効果が得られているとハーベイ氏は話しています。

イギリスでは、パーキンソン病とともに暮らし、同じ病気の人々を支援する活動を行っているキース・ウィルソン氏が、毎週のダンス教室を「一週間の大きな楽しみ」と表現しています。

「診断を受ける前は社交ダンスが大好きでしたが、今では姿勢を保つことができません。それでも、このパーキンソン病向けダンス教室は、一週間の中で最も楽しい時間の一つです」と彼は語りました。
 

ダンス教室の流れ

ダンス教室の内容は指導者や開催場所によって多少異なりますが、基本的な流れは共通しており、さまざまな身体能力の人が参加できるよう工夫されています。

「Dance for PD」の一般的なクラスは、まず椅子に座った状態で始まります。参加者全員がバランスを気にすることなく体を温め、動き始めることができるからです。

その後、それぞれの体力や安心感に応じて、立位での運動や、椅子を支えにした動き、バレエバーを使った練習、歩きながら行う運動やグループダンスへと進みます。必要に応じて、いつでも座ったまま参加することも可能です。

より特徴的なセッションでは、表現的な動きやリズム、即興も取り入れられ、それらは慎重に選ばれた音楽によって支えられています。大切なのは動きだけではなく、その場の雰囲気です。教室全体が互いを支え合い、一体感のある空間となっています。

「どこで開催される教室であっても、目標は完璧に踊ることではありません。より自信を持ち、想像力を働かせ、音楽を感じながら喜びを持って体を動かし、人との強い絆を築くことなのです」とレベンサル氏は話します。

ハーベイ氏は、創造性を生かした健康へのアプローチは、従来の医療モデルには当てはまりにくいため、その価値が過小評価されることがあると指摘します。しかし、研究成果と実践の両方が、その重要性を示しています。

「ダンスは、身体・認知・感情・社会性を同時に刺激し、それが自然にやる気を引き出し、人間らしさを感じられる活動なのです」と彼女は語ります。「その効果は、驚くほど大きなものになり得ます」

 

(翻訳編集 井田千景)

ゼナ・ルー・ルーは、健康ジャーナリストで、健康調査ジャーナリズムの修士号を持ち、機能栄養に特化した認定健康およびウェルネスコーチです。スポーツ栄養学、マインドフルイーティング、内的家族システム、および応用ポリヴェーガル理論のトレーニングを受けています。彼女はプライベートプラクティスで働き、英国に拠点を置く健康学校の栄養教育者としても活動しています。